■呪いの子

29:集う反逆者達


 階段を降り、地下へ向かうと、そこには土と埃にまみれた小さな部屋があった。スネイプの後に続き入室したレギュラスだったが、すぐに何者かに胸ぐらを捕らえられ、テーブルに押し倒された。

「少しでも動いて見ろ。頭を蛙に、腕はぐにゃぐにゃにしてやる」

 物騒な脅しをかけていのはハーマイオニー・グレンジャーだった。服は色褪せているが、女戦士のような出で立ちだ。言動も相まって、かなり似合っている。

「ハーマイオニーおばさんの怖さは良く知ってるから、お願いだからそんなことしないで……」

 レギュラスはすっかり怯えて返答した。ジェームズに悪戯されたハーマイオニーが、何十倍にもやり返したのをレギュラスはしっかりと覚えていた。

「安全だ。この子は安全だ。我輩が危険人物を連れてくる訳がなかろう」

 スネイプは呆れたようにハーマイオニーを見ていた。

「君は昔から他人の言うことを聞いたためしがない。学生の時、君は恐ろしく不快な生徒だったし、今も恐ろしく不快な――何だか知らぬが今の君だ」
「私は優秀な生徒だったわ」
「どうだか。とにかくこの子は味方だ」
「僕を信じて、ハーマイオニーおばさん」

 ハーマイオニーはまだ信用できないという顔でレギュラスを見ていた。そもそも、『おばさん』という部分にピクリと彼女の眉がピンと跳ね上がっていた。

「私はグレンジャーという名で知られている。そのように気軽に呼ぶな」
「でも、僕たちは親戚だ。そうでしょう?」
「誰がマルフォイなどと親戚か!」
「あっ、こっちでは違うのか――」
「ええい、話がややこしくなる。お前は黙っていろ。まずは座って話をするのだ」

 スネイプはレギュラスを一喝した。皆が渋々腰を下ろそうとした所で、ロンが駆け込んできた。髪は突っ立ち、服は乱れている。反逆者らしい出で立ちではあるが、ハーマイオニーほど様になっていない。どちらかというと、フレッドとジョージに悪戯された後の髪型のようだ。そんなことを口にすれば、今にでもここから追い出されそうな気がしたので、レギュラスは口が裂けても言うまいと決心した。

「セブルス、かたじけないご訪問だな。そして――」

 彼はようやくレギュラスに気づいた。ぎょっとして杖を取り出す。

「こいつは何の用だ? こっちは武装しているぞ。危険極まりないぞ――」

 ふと言葉を切り、ロンは杖を持ち直した。逆さまに杖を握っていたのだ。

「警告するが――」
「ロン、この子は安全だ」

 ロンはハーマイオニーを見た。ハーマイオニーは頷いた。

「そうかい? 何だかよく分からないけど、ハーマイオニーがそう言うなら安心だ」

 ロンは疲れたように椅子に腰を下ろした。それが合図だったかのように、皆も椅子に座った。

 それから、レギュラスは事の次第を語った。元の魔法界がどのような世界だったか、両親のために逆転時計を使ったこと、過去を変えたことにより、魔法界が大きく変わってしまったこと――。

 話を聞きながらハーマイオニーは逆転時計を調べ、その横でロンは事の次第を飲み込もうとしていた。

「それじゃ、君が言うのは、歴史の鍵を握っているのが……ハリエットとマルフォイ? 相当ぶっ飛んだ話だ」
「私は信じるわ」

 ハーマイオニーは優しく言った。彼女の口調が、ようやくレギュラスのよく知る柔らかいものになったので、レギュラスはホッと胸を撫で下ろしている最中だった。

「この子はセブルスのことを知っている――この子が知るはずのないことを……」
「ハリエットから聞いたのかもしれないぜ」
「ハリエットは絶対に話さないわ」

 ハーマイオニーはコトリと逆転時計をテーブルに置いた。

「この子に話せば、それだけこの子が危険になるもの。それに、この子を通して父親に話が漏れる可能性もある。ハリエットはそんな危険は冒さないわ。そもそも、話してどうなる? 懐かしい昔話を――今や禁忌になったクーデターの話をして、誰にメリットがあるの?」
「マルフォイの息子だぜ? 何か裏があるんじゃないのか?」
「でも、ハリエットの息子でもあるのよ」

 ロンを睨んだ後、ハーマイオニーはレギュラスを見た。ローズやヒューゴを迎えに来た時の彼女を彷彿とさせる、優しい顔だった。

「ハリエットは元気にしてる? あ、この世界のハリエットのことよ」

 レギュラスはパッと喜色を浮かべたが、すぐにそれは萎れた。

「あんまり元気じゃないかも……ウィルトシャーの別宅に住んでる。ここに来る前に会ったけど、あそこからは出られないって言ってた……。二人のことはとっても心配してたよ」
「それはそうでしょうね。マルフォイ家の嫁が逃げ出せば、どれだけの情報が抜かれるか分からないもの」
「魔法省でパーシーおじさんにも会ったよ。すごく疲れてそうだったけど……」

 パーシーの名を出した瞬間、ロンの顔が曇った。ハーマイオニーが彼を気にしながら言った。

「パーシーやビルは、残った家族のために魔法省で働いているわ。でも監視が厳しいから、もう何年も連絡を取ってない。ホグワーツの戦いでは、純血の者はほとんど生かされたと思うわ。純血を絶やさないためね。でも、必ず人質を取られた。……ロンのお父さんやネビルのお祖母さんはアズカバンに」

 ロンは黙ったまま拳を握った。

「ハリエットは、殺されそうになった私達のことを助けてくれたわ。ハリエットがヴォルデモートに下れば、皆のことは助けると言われて……。もう私達に勝ち目はなかったのよ。ハリーが死んで……シリウスも死んで」
「お爺ちゃんは……」
「ハリーが殺された後、敵討ちでヴォルデモートに挑んだの。でも、ヴォルデモートは強かった……ニワトコの杖は、その時には既に名実ともにヴォルデモートのものだったの」

 ハーマイオニーは静かに首を振った。

「家族がいる者は、皆ヴォルデモートに下ったわ。本当に少数の――私達みたいな人は、そこから逃げだそうとした。まだ諦めなければチャンスはあると思って。でも、そんな私達を逃がそうとして、ホグワーツの先生方はほとんど亡くなられた。不死鳥の騎士団もよ。――ヴォルデモートはそれからすぐ行方をくらましたわ。後を追いたかったけど、でも、私達はすぐ魔法界でお尋ね者になってしまったから、動こうにも動けなかった……。ヴォルデモートに下ったダンブルドア軍団の中にも、影ながら私達を助けてくれた人もいるわ。マグル生まれの魔法使い、魔女を助けたり。でも、厳しい警戒の中を掻い潜るのは難しいことだった。バレたらすぐに粛正よ」
「でも、それでもあなた達はまだ戦い続けている。僕のこと助けてくれない?」
「実際、助けられるのは我々だけだろう。ダンブルドア軍団は、最盛期より相当数が減った。実際――」

 ロンは一瞬言い淀んだ。認めるのが辛いのだ。

「残っているのは我々ぐらいのものだ。でも戦い続けている。目と鼻の先に隠れて。あちこちくすぐってやろうとしているんだ。ハーマイオニーはお尋ね者魔女。僕はお尋ね者魔法使い」
「君のお尋ねのレベルは低いが」

 スネイプがボソッと突っ込んだ。ロンは聞こえない振りをする。ハーマイオニーが手を叩いて止めさせた。

「はっきりさせたいのだけど、君のいる別の世界では……君が時間軸に介入するまではどんな世界なの?」
「ヴォルデモートは死んでる。ホグワーツの戦いで死んだんだ。ハリー伯父さんは魔法法執行部の部長で、ハーマイオニーおばさんは魔法大臣」

 ハーマイオニーは驚いてピタリと動きを止め、笑みを浮かべて顔を上げた。

「私が魔法大臣?」
「素晴らしい。僕は何をしているんだい?」
「ウィーズリー悪戯専門店を経営してるよ」
「オーケー、ハーマイオニーは魔法大臣で僕が店の経営……うん? 随分スケールが違うじゃないか」
「ロンおじさんは主に子育てに専念してるんだ。おかげでローズは元気な子に成長してるよ」
「ローズか……うん、良い名前だ。いつだったか、僕が名付けたいって言った名前じゃないか。きっと子供の母親もセクシーな人なんだろうな」

 レギュラスは赤くなった。チラチラロンとハーマイオニーを見比べる。

「おじさんがどう思うかだけど……でも、いつも二人はラブラブだったよ。喧嘩の方が多かったけど」
「相手は誰なんだい?」
「うん……だから、あなた達二人は、なんて言うか子供がいて――お互いの子供で、女の子と男の子が一人ずつ」

 ロンとハーマイオニーは驚愕して顔を上げた。

「結婚していて、愛し合っていて……。とても幸せそうだよ」

 二人は顔を見合わせ、視線を逸らした。それからロンがもう一度ハーマイオニーの方を見る。咳払いを繰り返すが、空咳は次第に弱くなり、嘘っぽくなる。

「ロン・ウィーズリー、私を見る時に口を閉じなさい」

 ロンは言われたとおりにしたが、まだドギマギしている様子だった。もう一度嘘くさい空咳をし、調子を取り戻そうとした。

「ようし、いいよ、分かった。セブルスは何してるんだい?」
「魔法薬の教授をしてるよ」
「へえ」
「グリフィンドール寮監のルーピン先生と相性が悪くて、いつも言い合いばかりしてるよ」
「ルーピン先生……」

 ハーマイオニーは呟き、寂しげな、懐かしそうな顔になった。

「教科は?」
「闇の魔術に対する防衛術」

 ハーマイオニーは黙り込み、なんとも言えない表情をした。それを見て、レギュラスはもうルーピンがこの世にいないのだと悟った。

「ジニーは?」

 先ほどとは打って変わって、ロンは視線を下に落としたまま尋ねた。

「ジニーはどうしてる? 幸せに暮らしているかい? 結婚はしてる?」
「ハリー伯父さんと。三人の子供がいるんだ」
「ああ、ハリー……」

 ハーマイオニーは口に手を当て、ロンは一層下を向いた。

「ハリー……ああ……ハリーと……」

 知りたくない事実がレギュラスの胸を打つ。レギュラスのこの情報も、むしろ彼らの痛みに鞭打ちようなものなのに、二人はまだ続ける。

「フレッドとジョージは?」
「結婚してるよ。ロンおじさんと一緒に悪戯専門店の経営を」
「なんて素敵な世界なんだろうな……。孫がたくさんいて、ママも大喜びだろう」

 場は再び静かになった。雰囲気を盛り上げようと、ロンは変に意気込んだ。

「セブルスは相変わらずなのか? スリザリン贔屓が目に余るだろう?」
「うん」

 レギュラスは素直に頷いた。スネイプにはギロッと睨まれる。

「それどころか、もっとひどいかもしれない。僕とアルバスはスリザリンなのに、贔屓どころか、減点の嵐だよ」
「ははっ、そりゃ、セブルスはハリーに特に意地悪だったのに、その息子と来たらなあ! あれ? でも待てよ。君はマルフォイの息子なのに減点するのか? ――なぜ?」
「我輩に聞かれても知らん!」

 スネイプはそっぽを向いた。

「まあ、そうだな。セブルスは何十年と煮詰められた性悪の塊だから――いてっ」

 スネイプに頭をしばかれ、ロンはようやく黙った。だが、大人しくなったのはほんの数秒だけだった。

「レギュラス、君のこと気に入ったぜ」

 ロンはニヤニヤと笑った。

「君は……何というか、なかなかに愉快だ。マルフォイの息子なんだからいけ好かないと思い込んでいたが、うん、さすがはハリエットの息子だ。癒やし的要素が――うん?」

 ロンは首を捻った。何かにひっかかったらしい。

「ちょっと待て。君は――別の、ヴォルデモートの死んだ世界から来たんだよな? それなのに、ハリエットとマルフォイの息子であることに変わりはないのか? それっておかしいぞ」
「どうして?」
「だって――誰がわざわざあんな奴と結婚する?」

 ハーマイオニーがロンを叩いた。スネイプも鋭くロンを睨んでいる。ロンは怯まずに続けた。

「だってそうじゃないか。ハリエットは脅されたのか? その世界の僕らはどうしてる? なぜ結婚を止めなかったんだ? ハリエットの頭がおかしくなったのか?」
「そんな風に言わないで!」

 ショックを隠しきれない顔でレギュラスは叫んだ。

「お父さんとお母さんは、六年生の時には既に両思いだったんだ! でも、ヴォルデモートに操られてお父さんはお母さんを拉致して……それを後悔して、騎士団に寝返った! それからはずっと分霊箱探しの旅にも同行して、その絆があったから、お父さんはお母さんに諦めない勇気を与えたんだ! それで――それで、お母さんはナギニをやっつけた!」
「りょ、両思い?」

 ロンは引きつった顔で聞き返した。まるで初めてその言葉を知ったとでも言いたげな顔だ。

「だって、それじゃ、この世界の二人も、君達が介入する前は、既に両思いだったってことになるじゃないか。それっておかしい」
「おかしくはないわ」

 ハーマイオニーは冷静に切り返した。

「だって、ハリエットはあんなにマルフォイのこと気にしてたじゃない。私ももしかして……とは思っていたもの」
「ドラコは確かにヴォルデモートからハリエットの拉致を命じられていた。ヴォルデモートが言うには、ドラコがハリエットのことを好いているから、という理由だったのだが……どうやらそれは本当のようだな」

 スネイプの言葉に、ロンとハーマイオニーの動きがピタリと止まる。二人は同時にスネイプを見た。

「何それ、聞いてないわよ」
「僕も初めて聞いた」
「言わなかったか? ドラコが死喰い人になるとき、ヴォルデモートから開心術を受けた。その時にドラコの記憶を見て、ヴォルデモートはそう判断したのだ」
「そんな大切なことどうして言わないのよ!」
「マルフォイがハリエットのことを好きだって!? 何それ、初めて聞く!! 僕はてっきり嫌がらせのためにハリエットと結婚したのかと!」

 二人は一層テーブルの上に身を乗り出した。スネイプは逆に椅子を引く。

「好きだの嫌いだの、生きるか死ぬかの状況においては関係ないだろう!」
「関係あるよ!」

 レギュラスは熱が入って立ち上がった。

「お父さんは、お母さんのことを愛していたから、ヴォルデモートを裏切ったんだ! それがあったから、魔法界は――」
「レギュラス、僕その話もっと聞きたい!」

 もはやただの野次馬と化したロン。反対にハーマイオニーは一旦冷静になって椅子に元通り腰掛けた。

「まさか二人が両思いだとは思わなかったけど……でも、それなら良かったわ。二人はちゃんと好き合っていたのね。私、てっきりマルフォイに脅されて結婚したんだと思ってたから……」
「お父さんはそんなことしないよ」
「いいか、君は父親に幻想を抱きすぎている」

 ロンは大仰に腕を組んだ。

「もしマルフォイが良い人なら、ヴォルデモートのいるこの世界で、好き好んで魔法法執行部部長なんて務めると思うか? 絶対に手を汚す羽目になるんだぞ」
「なるしかなかったのよ」

 ハーマイオニーが割って入った。

「そうしないと、家族を守れなかったから」
「君はすっかりマルフォイの味方みたいじゃないか」
「二人が両思いだったって言うのなら、話が変わってくるからよ」

 ハーマイオニーはすっかり遠い目になった。

「マルフォイがハリエットと結婚したのも、ハリエットを守るためだったんだろうし……だって、ハリー・ポッターの妹なのよ? いつヴォルデモートの気が変わって殺されるか分からないわ」
「でも、結婚するときハリエットは散々なこと言われたんだぞ! ハリエットは死喰い人だとか、スリザリンの継承者なんだから、マルフォイ家の嫁に相応しいだとか! スキーターが随分嬉しそうにあることないこと書き連ねてたな!」
「わざとそういう風に書かせたのよ。普通、純血名家の嫡男が、半純血の、それもクーデター首謀者の妹と結婚できる訳ないでしょう? そういう風に書けば世間の目を誤魔化せるから」

 『絶対に反対されたでしょうに、そう考えると、マルフォイの覚悟もなかなかのものね』と、ハーマイオニーは最後にそう締めた。レギュラスは胸が熱くなるのを感じた。この世界のドラコ・マルフォイも、やり方は違えど、家族を――母のことを愛していたのだ。そしてそのことを他でもないハーマイオニー・グレンジャーに認めてもらえて、レギュラスは嬉しくなった。

「とにかく、あー、うん、二人が魔法界を背負ってるってことは分かった」
「ダンブルドア先生が亡くなった夜、ハリエットはマルフォイに拉致されなくちゃいけなかった。……その後、ハリエットはベラトリックス・レストレンジに磔の呪文をかけられる……」
「ドラコは、それを苦に思ってヴォルデモートに刃向かうのだな?」
「それ以降は、奴は騎士団に協力して、僕たちと一緒に分霊箱探しの旅に出る、と」
「そして、ホグワーツの戦いでも、ハリエットがナギニを殺すだけの勇気を与えるのね?」
「そうだよ」

 レギュラスは真剣な表情で頷いた。

「お母さんは、今でも過去の傷に苦しんでる。そんな過去がなければと思って逆転時計を使ったけど……でも、あの事件がなくちゃ、ナギニは死なない。ヴォルデモートはまた復活してしまう」
「あなた達は、具体的に何をして過去を変えたの?」
「お母さんを抱えてた人に全身金縛り術をかけたんだ。その後、お父さんがお母さんを抱えて走ったけど、シリウスお爺ちゃんに阻まれて……」
「盾の呪文を使えば、妨害して無効にできるわね」
「その後でその場を去ったのか?」

 スネイプが続けて尋ねた。

「逆転時計が僕たちを連れ戻してくれました。そうです、それが問題で――逆転時計は五分しか過去に戻れません」
「それで、時間だけ移動して、場所は移動しないの?」
「そう、そうです。つまり――出発したと同じ場所に、タイムトラベルして戻るんです」
「おもしろい」

 スネイプとハーマイオニーは、このことが何を意味するのか分かっている様子だった。二人で顔を突き合わせる。

「さすれば、この件は私とこの子だけで」
「セブルス、気を悪くしないで欲しいけど、この件は私以外の誰にも任せられない……重要すぎる」

 再びハーマイオニーの口調が戻っていた。スネイプの顔も真剣そのものだ。

「ハーマイオニー、君は魔法界の反逆者としてお尋ね者ナンバーワンだ。この仕事をするには外に出なければならない。君が最後に外に出たのはいつだ?」
「確かに随分前よ、でも――」
「外で見つかれば、吸魂鬼がキスをするだろう――君は魂を吸い取られる……」
「セブルス、屑ばかり食べて、クーデターに失敗し続けるのはもううんざりなのよ。今度こそ世界を作り変えるチャンスなの」

 ハーマイオニーが頷いて合図をすると、ロンが地図を広げた。

「私達六人が最初に戦ったのは、玄関ホールね。そこからハリエットを連れたマルフォイとグレイバックが逃げ出して――箒置き場に隠れているレギュラスが呪文をかける。――あの乱闘があった最中、ここの作戦室から玄関ホールへ移動するのは危険だわ。過去の私達に姿を見られる可能性がある。私達は、どうあっても今、玄関ホールへ向かって、そこで逆転時計を作動させる必要がある」
「君は、全てをリスクに晒そうとしている――」

 スネイプは厳しい表情で言った。

「間違いなくやってのければ、ハリーは生きている。ヴォルデモートは死ぬ。そしてオーグリーは去る。それだけのことをするのだから、どんなリスクでも取る価値がある」

 ハーマイオニーは地図をしまい、杖を手に取った。ぐるりと皆を見回せば、全員、決意を秘めた表情をしていた。