■アフターストーリー

02:太陽の下で


 無罪を持ち帰ったシリウス達三人は、大歓声の中迎えられた。
いつかのハリーの時のように、『ホーメン、ホーメン』とフレッド、ジョージ、ジニーは歌い踊った。あの時と違うのは、上機嫌なハリーも加わっていたことだろう。ちゃっかりジニーの手を取って踊っている彼は、心の底から嬉しそうだ。――シリウスの無罪放免とジニーと踊れていること、どちらが今の彼にとって一番嬉しいのかは聞かないでおこうとハリエットは思った。

 モリーが腕によりをかけて用意した料理は、目玉が飛び出すほどおいしかった。テーブルに載りきらないほどの量だったが、その全てをお腹に収め、皆は幸福感に酔いしれた。

「どこかに出掛けないか?」

 己の両隣を陣取っていた双子に、シリウスは微笑んで囁いた。

「折角無罪になったんだ。大手を振って外を歩きたい」
「シリウスこそ、行きたいところはないの?」

 彼の意見には大賛成だった。だが、どうせ行くならシリウスの行きたい所にしたい。十数年思うように魔法界を出歩いていないのだ。今のシリウスには、行きたい場所がごまんとあるはずだ。

「君たちと一緒なら、わたしはどこだっていいんだ」

 だが、そう返されたとき、ハリーとハリエットは顔を見合わせた。シリウスと行きたいところと言ったら、一つしかなかった。

「ダイアゴン横丁がいいな!」

 声を合わせてそう言うと、シリウスは破顔した。

「じゃあ行こう!」

 三人は、隠れ穴の暖炉を借りて、漏れ鍋まで移動した。漏れ鍋に到着したところで、確かにシリウスは無罪になったが、まだ皆には知られてないことなんじゃ――脱獄囚として通報されるんじゃ――と心配になった双子だったが、なんてことはない。大ニュースとして、いち早く日刊予言者新聞が号外を配っていた。

 『ポッターズウオッチ聞いていたよ』と声をかけてくれた店主のトムに、件の号外を借りた。シリウス達三人の写真が激写されており、それが一面に大きく載っていた。『魔法省の大きな失態! シリウス・ブラック、涙ながらの無罪!』とデカデカタイトルが書かれている。写真のハリーとハリエットは泣きはらした顔をしており、それを庇うようにシリウスが立っていた。その光景を、記者は『冤罪はブラックを人間不信にさせた』と解説していた。

「シリウスの言葉は、何も響かなかったみたい」

 ハリエットは顔を顰めて新聞から目を離した。ハリーは想定していたようで、呆れたような顔だ。

「でも、これで堂々と外を歩けるよ」

 あることないこと書き込みそうな新聞にはあまりいい気はしないが、これほどまでに迅速に冤罪だということを知らしめてくれたことには多少なりとも感謝の気持ちがあった。

「しばらくは落ち着かない暮らしになりそうだがな」

 現に、シリウス・ブラックとハリー・ポッターは、漏れ鍋の中で非常に目立っていた。お出かけという目的に目を眩ませ、浮き足立っていた三人は、自分たちが有名人ということをすっかり失念していた。せめて変装してから来るくらいの工夫はあっても良かったのに。

 現在、三人は、初めてハリーとハリエットがこのパブを訪れたとき以上の注目ぶりだった。名実ともに魔法界の英雄となったハリーと、冤罪とは言え、脱獄囚として有名だったシリウスにさすがにおいそれと声をかけることはできないのか、遠巻きにチラチラ見つめるだけだったが、この場の全ての人の興味は、おそらく自分たちにあるだろうことは明白だった。

 トムに一言断って、三人はすぐにダイアゴン横丁に向かった。誰か勇気を出した一人が握手を求め、そしてそのせいでせきを切ったように自分も自分もと握手を求め始める輩が出て来る前に。

 ダイアゴン横丁には、暑いくらいの陽光が照りつけていた。死喰い人の残党は着々と狩られ、ダイアゴン横丁は以前の活気を取り戻していた。日の目に負けないくらいの明るさで客を呼び込む声が聞こえる。

 シリウスは眩しそうにキョロキョロ見回しながら、通りを歩いた。さすがに犬の姿でもダイアゴン横丁に来ることができなかった彼は、十数年ぶりのはずだ。新学期が始まるたびにお世話になったこの場所は、シリウスにとっても、ハリー、ハリエットにとっても非常に思い入れのある場所だった。

 目まぐるしくすれ違う人の波に、三人は漏れ鍋ほど注目は浴びなかった。庭小人ほどもいる他の魔法使いを気にする人はほとんどおらず、大抵は店先に並ぶ商品に注意をとられていたからだ。

 とはいえ、例外はあった。特に魔女達は、前から歩いてくるシリウスの高身長に目を留め、そのハンサムな顔立ちに足を止め――そしてマジマジと眺めて気づくのだ。冤罪のシリウス・ブラックだと。

 興奮したようにその魔女が隣の友人に囁く合間に、シリウス達はあっという間に通り過ぎていた。ダイアゴン横丁に来たはいいものの、三人の目的は買い物ではない。ただシリウスと太陽の下堂々と歩くだけで良かったのだ。

 それでも、ダイアゴン横丁を一回りすると、どうせなら何か買い物をしようという話になった。双子が問答無用でシリウスを連れて行ったのは、マダム・マルキンの洋装店だ。クリスマスプレゼントにシリウスにあげたローブは、一年間の放浪の旅ですっかりくたびれていた。魔法省に出向くために、髭も髪も整えていたシリウスだが、ほつれのあるローブではあまり格好もつかなかった。これを機にローブも新調しようと双子は説得して洋装店に連れて行った。

「やっぱりシリウスには赤が似合うわ」

 マダム・マルキンと熱心に話し合って、シリウスのために購入したローブは、落ち着いたボルドー色の刺繍がアクセントになっていた。

 ハリエットが満足げに言うと、シリウスは照れくさそうに笑った。

「ありがとう。じゃあ、折角なら君たちも新しい服を買い込まないと。この一年でまた身体も大きくなっただろう?」
「そうね、特にハリーはもっと格好良い服を着ないと! ジニーを唸らせられるくらいの!」

 瞳をキラキラさせて言うハリエットに、シリウスは目を瞬かせた。

「ジニー? もしかして、ハリーとジニーは付き合っているのか?」
「知らなかったの?」
「ハリエット!」

 ハリーが慌てて妹を止めたが、もう遅かった。シリウスはニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべていた。

「ほう……ジニーか。ハリーも見る目があるじゃないか。いつからだ?」
「シリウス……」

 ハリーはジトッとした目で後見人を見た。その瞳には、何があっても口を開かないぞという信念が見え隠れしていた。

「六年生の時よ。クィディッチでグリフィンドールが優勝したその時から、ハリーとジニーは付き合うようになったのよ」

 なぜかハリエットは得意げに言った。シリウスはますますニヤニヤする。

「ほーう、ジニーはハリーの箒で空を飛ぶ姿に惚れたんだな?」
「それもあるかもしれないけど……でも、付き合うきっかけとしては逆じゃないかしら? ハリーの代わりにジニーが試合に出たとき、ジニーが見事グリフィンドールを優勝に導いてくれて感極まって……って感じよね?」
「知らないよ!」

 ハリーはやけっぱちになって叫んだ。そして告げ口する妹を睨み付ける。

「そういうハリエットだって、ド――」

 余計なことを口走りそうな兄を、ハリエットは視線で黙らせた。シリウスの耳は天敵の名前を聞きつけたような気がしてひくひく動いたが、慌てて笑みを取り繕うハリエットの前では、普段は鋭いその機能もそれ以上働きはしなかった。

「早くハリーの服を選びましょう」

 ハリエットの勢いに押されるようにして、二人はそのままハリーの服選びに時間を割いた。ああでもない、こうでもないと、大人のモテ男子シリウスと、女子代表ハリエットが話し合った結果、五着もの服が購入された。これでジニーとのデートは大丈夫ねとハリエットが下手なウインクをすれば、ハリーはジト目を返した。

 服選びに意外と時間がかかってしまったので、洋装店を出る頃には、またすっかり小腹が空いていた。丁度近くにフローリシュ・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーがあったので、そこでアイスクリームを食べることにした。

「わたしが買ってこよう」

 四人がけのテーブルに双子を座らせ、シリウスはそう宣言した。

 アイスクリームくらい私が買ってくるわとハリエットは言いかけたが、あんまり彼が嬉しそうなので、結局その言葉は喉元で押しとどめられた。

「私はイチゴアイスが良いわ」
「僕はバニラ」

 特にイチゴが好きというわけではないが、気がつけばハリエットはそう答えていた。シリウスは軽く頷いて注文をしにいった。

 次に彼が戻ってきたとき、彼は三つのアイスを器用に持っていた。自分たちが頼んだアイスの上に、更にもう一つチョコレートアイスが乗っかっているのを見て、ハリエット達は目を丸くした。

「注文して早々、わたしだと気づかれたみたいだ」

 シリウスは悪戯っぽく言った。

「応援してると言われたよ。チョコレートアイスはおまけだそうだ」
「本当に魔法界は情報が出回るのが早いね」
「それが正しいかどうかはさておき、な。ほら、ハリエット、早く食べないと溶けるぞ」
「あ、ええ……」

 ハリエットは慌ててチョコレートアイスをなめた。控えめな甘さが口の中にじんわり広がる。

「ねえ、シリウス。やっぱり変装した方が良かったんじゃない?」

 ハリーはアイスを舐めながら、居心地悪そうに囁いた。

 店主のフォーテステューから情報が漏れたのか、いつの間にかパーラーにはちょっとした人だかりができていた。皆シリウスやハリー目当ての魔法使い達である。

 ただ、予言者新聞の、『冤罪はブラックを人間不信にさせた』を信じているのが、彼らはシリウス達を遠巻きに見るばかりで、声をかけることはしない。

「そうだな。ここまで来ると、有名人も煩わしいくらいだ――って、ハリエット?」

 何気なくハリエットに視線を向けたシリウスは、思わぬ光景に二度見した。

 何故だか分からないが、ハリエットはポロポロと涙をこぼしていた。

「ど、どうしたんだ? お腹でも痛いのか?」

 シリウスは途端にあわあわとしてハリエットの背中を撫でた。ハリエットはぶんぶん首を振る。

「う、嬉しくて……」

 ハリエットは嗚咽を堪えながら囁いた。

「本当に、嬉しいの……。シリウスとこうして外にお出かけできるのが……。私、本当に夢だったの……」

 ハシバミ色の瞳がハリーに向けられる。

「ハリー、覚えてる? 初めてダイアゴン横丁に来たときのこと……。ハグリッドが優しくしてくれて、私、とっても嬉しかった。でも、お父さんとお母さんと一緒に歩いてる子達を見るとやっぱり羨ましかったの」

 シリウスは父親ではない。だが、今や同じくらいハリエットにとって大切な存在だった。彼と大通りを、大手を振って歩けるのが嬉しかった。なんてことはない、ただアイスクリームを食べるだけのことが幸せでならない。

「ごめんなさい……」

 ハリエットはすぐに泣き止んだ。もともと、少し感極まって涙が出てしまっただけのことだ。この年になって往来で泣くなんて、とハリエットは恥ずかしくなって下を向いたが、シリウスは、そんな彼女の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「これからはたくさん遊びに行こう。君たちの行きたいところなら、どこへでも連れて行くぞ」
「遊園地に行きたいな」

 ハリーはすぐに答えた。ね、と同意を求めるように妹を見れば、ハリエットは途端に元気になって頷いた。

「私も行きたい。行ったことないの」
「遊園地? マグルの観光地か?」
「楽しいところだよ。ジェットコースターが人気なんだ。空飛ぶ機会だよ」
「空を飛ぶだけなら、箒で充分じゃないのか?」
「箒とジェットコースターは違うよ」

 ハリーはクスクス笑って答えた。ハリエットもおかしくなって笑う。

「きっとシリウスなら気に入ってもらえるわ」
「この後行くか?」

 興味を惹かれたのか、シリウスは真面目な顔で言ったが、ハリーは首を振った。

「折角なら、朝から行きたいな。朝から行っても全部回りきれないくらいいろいろんだ」
「映画も見たいわ。海にも行きたい」
「クィディッチもしたい」
「私を仲間はずれにするの?」

 ハリエットは唇を尖らせた。シリウスはカラカラ笑う。

「ハリエットはわたしの後ろに乗れば良い」
「僕の後ろの方が良いんじゃないの?」
「わたしを見くびっては駄目だぞ、ハリー」

 シリウスは不適に微笑んだ。

「わたしはクィディッチの選手ではなかったが、箒は得意だ。よくジェームズの練習相手にもなったしな」
「現役を舐めちゃ困るな」
「全ては経験がものを言うことを知らないのか?」

 バチバチッとハリーとシリウスの間で火花が鳴る。こういう話では、やはりハリエットは間に入ることができず、少し拗ねた。

「さあ、そろそろ行くか。ここでは人の目もあってゆっくりしていられない。歩きながら話そう」

 皆がアイスを食べ終えたのを見て、シリウスは立ち上がった。遠巻きに三人を眺めていた観衆がワッとどよめく。

「次はどこに行く?」

 歩きながら、シリウスは尋ねた。観衆がまるで追っかけのようにシリウス達の後をついてくるので、ちょっとした有名人どころの話ではなくなってきた。あちこちから『シリウス・ブラックだ……』『スナッフルだ……』という興奮したような囁き声が聞こえてくる。

「わたしの二つ名も随分有名になったものだな」

 シリウスは満足そうに言った。ハリーも同じことを思ったのか、呆れた目を彼に向けた。

「まんざらでもなさそう」
「当然だ。ハリエットが名付けてくれた名前だからな」
「シリウスのアニメーガスを見たら、皆もっと喜ぶと思うわ」

 だって可愛いもの、とハリエットは無邪気に付け足した。

「でも、その機会はきっと永遠に来ないと思うよ。シリウス、アニメーガスのことは隠す気満々だし」
「そうなの? でも、魔法省で何も聞かれなかったの?」
「隠し通した」

 シリウスは罪悪感なんて何のその、堂々と答えた。

「でも、アズカバンをどうやって脱獄したのかっていうのは聞かれなかったの?」
「黙秘権を使った」

 シリウスはニヤリと笑う。

「バレたらアズカバンに出戻りかもな」
「洒落にならないこと言わないで」

 ハリーが至極真面目な顔で言った。

「まあ何とかして隠し通す気はあるから安心してくれ。マクゴナガルには苦い顔をされそうだが。……折角ヒトの姿で堂々と歩けるようになったんだ。わざわざ犬の姿になりたくはない」

 シリウスはちっともそう思っていない顔でケラケラと笑った。

「じゃあ、人の目もあるし、最後にわたしの行きたい場所に行っても良いだろうか?」
「どこへ行くの?」
「内緒だ」

 シリウスは前を向きながら答えた。そうして彼が向かったのは、小さな花屋だ。花屋がシリウスの行きたい場所だなんて、意外すぎて深く追求もできなかった。

 シリウスは、そこで花束を二つ買った。シリウスは黙ってそれぞれをハリー、ハリエットに渡してきたが、どうしてもその花束が自分達に向けられたものだとは思えなかった。

「行くぞ」

 シリウスが差しだした手を、ハリー達は握った。これから『シリウスの行きたい場所』に行くのだと思った。

 胃が捻れるような感覚と共にたどり着いたのは、小さな家々が立ち並ぶ、小さな村だった。ハリエットは物珍しくキョロキョロしていたが、ハリーは小さくあっと声を漏らした。

「ゴドリックの谷……」
「覚えているのか!?」

 驚いたようにシリウスが聞き返した。ハリーは渋い顔になった。

「旅をしている間、一度ここに来たことがあるんだ、ハーマイオニーと一緒に」
「そうか……」

 シリウスは少し残念そうだったが、気を取り直すように歩き出した。

「ハリエットは、まだ来たことがなかったか?」
「ええ。私達が暮らしてた場所でしょう?」
「ああ。ジェームズとリリーが結婚してからは、ずっとこの村で暮らしていた……」

 通りを歩いているうちに、小さな広場が目の前に現れた。広場の中央には、戦争記念碑のようなものが見えた。

 広場をぐるりと囲うようにして、店が数軒と、郵便局、パブが一軒、それに小さな教会が並んでいた。

 三人が記念碑に近づくと、いつのまにかそれは四人の像に様変わりしていた。眼鏡をかけたくしゃくしゃな髪の男性、髪の長い優しく美しい顔の女性、父親と母親、それぞれに抱かれた男の子と女の子。

 ハリエットは近寄って両親の顔をじっと見た。まさか、二人の像があるとは思いもしていなかった。等身大の両親を見るのは、なかなかに感慨深かった。

 ハリエットが存分にその像を眺め終わるまで、ハリーもシリウスも、決して急かさなかった。ハリエットが言い出してようやく一行は歩みを再開した。

 シリウスは、真っ直ぐ教会へ向かい、狭い小開き門から墓地へと足を踏み入れた。教会の裏へと続く小道を抜けると、そこには古い墓石が何列も突き出ていた。

 迷う様子もなく歩くシリウスが足を止めたのは、白い代理席の前だった。そこには、ジェームズ・ポッターとリリー・ポッターの名前が彫られていた。

「ジェームズ、リリー……」

 シリウスは小さく呟き、墓石の前に膝をついた。ハリー、ハリエットもまた、背の低い墓石に視線を合わせた。

 この白い石の下に両親が眠っているとは、想像もつかなかった。不思議な気持ちだった。望まない形ではあるが、あれほど焦がれていた両親が、今自分の目の前にいる。

 ハリエットは、流れ落ちる涙をそのままにしていた。それがどういう感情かはわからなかった。悲しくもあるし、嬉しくもあるし、寂しくもあるし、幸せでもある。

「実は、アズカバンを出てからすぐ、ここに来たことがあったんだ」

 墓石を眺めながら、ポツリとシリウスが呟いた。

「わたしのせいで、二人を死なせてしまった。せめて謝罪がしたかった。……だが、いざこの場所へ来ると、二人の墓を見ると、後悔よりも悲しみよりも何よりも、怒りしか湧いてこなかった。悼むこともできないのに、来るんじゃなかったとすぐに思ったよ」
「シリウスのせいじゃないよ」

 ハリーがすぐに言った。ハリエットも頷く。

「私達、シリウスに何度も救われたもの」

 何度、シリウスがいてくれて良かったと思ったことだろう。シリウスのおかげで、無償の愛というものが分かった気がする。

「ありがとう……」

 シリウスは儚く微笑み、振り返った。三人ともしゃがんでいるのでは、目線はほぼ同じくらいだった。

「わたしは、君たち二人の最高の両親にはなれないだろう。でも、最高の後見人にはなりたいと思っている。どうか、わたしと一緒に暮らしてくれないか?」

 ハリーとハリエットは、目を丸くして顔を見合わせた。そしてクスクスと笑い出す。

「シリウス、プロポーズみたい」
「そう受け取ってくれても構わないぞ」

 茶化すつもりでハリーは言ったが、シリウスはむしろ堂々と胸を張った。ハリーは嬉しいような、おかしいような、複雑な気持ちになった。

「でも、私達、とっくにそのつもりだったから、何だか肩すかしを食らった気分だわ」
「僕たち、もう帰る家ないもんね」
「これからは、あのブラック家の屋敷を自分の家だと思って欲しい」

 シリウスは慌てて言った。

「陰気くさくて、気に入らないかも知れないが……」
「そんなことないよ。クリーチャーが毎日掃除してくれてるから、いつも綺麗だし」
「それに、シリウスが生まれ育った所だもの、そんな家に住めるだなんて素敵」
「僕たち、ダーズリーの家よりはよっぽどあそこを自分の家だと思ってるよ」

 シリウスは堪らなくなって双子を抱き締めた。力加減を間違えた彼の腕は苦しいほどで、ハリエットは肺をギュッと押しつぶされたような気がした。

「シリウス、これからもよろしくね」

 ハリエットは腕を回し、シリウスの背中をとんとん叩いた。シリウスは返事を返すかのように、また一層強く双子を抱き締めた。