■死の秘宝
31:人さらい
男達がそれぞれハリエット達を無理矢理歩かせ、他の囚われ人と背中合わせに縛り始めた。一人はディーンだった。彼の母親は確実にマグルであり、父親が魔法使いかどうか、証拠を持っていなかったので、魔法省の出頭から逃げ隠れしていたのだ。
一味は、捕虜を引き連れて姿くらましをした。
たどり着いたのは、どこか郊外の小道だった。目の前に長い馬車道とその入り口に両開きの鉄の門が見える。
人さらいの一人が大股で門に近づき、揺さぶった。
「どうやって入るんだ? 鍵がかかってる――うぉっと!」
急に鉄が歪み、門が恐ろしい顔に変わったので、男は仰天して手を引っ込めた。
「目的を述べよ!」
「俺たちはポッターを連れてきた。それにマルフォイの倅とポッターの妹もだ!」
門がパッと開いた。
「来い!」
グレイバックが一味に言った。捕虜達は門から中へ、そして馬車道へと歩かされた。やがて正面から灯りが漏れ、捕虜を照らし出した。
「ドラコですって? もっと前に連れてきなさい」
「ほら、行け!」
背を蹴りつけ、否が応でもドラコは前に出る。ナルシッサは血相を変えて玄関から出てきた。
「ドラコ!」
彼女はドラコに駆け寄り、『フィニート』で縄を解いた。そして最後には力の限り息子を抱き締める。この手を一生離すものかという表情で、彼女はキッとグレイバックを睨み付けた。
「なんてこと……ドラコにこんな仕打ちをして許されるとでも?」
「裏切り者に対しては当然の仕打ちだと俺は思うが?」
グレイバックは果敢にせせら笑った。
「そいつはハリー・ポッターと一緒に行動していた。妹もだ。『あの人』がこれを知ったらどう思うだろうな?」
ナルシッサの睨み付けるような視線がハリーと、そしてハリエットを捕らえる。
「どれがハリー・ポッターだと?」
「むくんではいるが、こいつは確かにハリー・ポッターだ! 額に傷跡がある。それに、こっちは間違いなくハリエット・ポッターだろう。この屋敷で何度も目にした」
グレイバックはハリーとハリエットを前に押し出した。二人は僅かに顔を逸らしたが、間違いなくその時にナルシッサと目が合った。
「その者達を中に入れなさい」
ナルシッサはドラコの肩に手を置き、玄関ホールに入った。ハリー達も広い石の階段を追い立てられ、その後を追う。
「何事だ?」
客間に入ると、ルシウスの疲れたような声が響いた。声だけでなく、目の下にはクマもあり、すっかりやつれているように見えた。
ナルシッサは僅かに笑みを浮かべて彼に駆け寄る。
「ドラコです。ドラコが見つかったのです」
「ドラコ……」
ルシウスはゆっくりと目を見開き、ドラコを見た。まるで触ったら壊れてしまうとでも思っているかのように、恐る恐る息子に触れる。
「それだけじゃないぜ。ハリー・ポッターとその妹も連れてきた」
「本当にこれがポッターなの?」
腫れ上がったハリーの顔を見ながら、ナルシッサは尋ねた。
「もしそうだとしても……闇の帝王を呼び出すわけにはいかないわ。ドラコの裏切りが明らかになってしまう」
「俺はそれでもいいぜ。それ相応の金をくれるのなら」
「――どういうことだ?」
ハリエットの背後で客間のドアが開き、女性の声がした。その声がハリエットの恐怖を更に強めた。
「シシー、何が起こったのだ?」
ベラトリックス・レストレンジが捕虜の周りをゆっくり回った。そしてハリエットの目の前で立ち止まる。
「なんと。ハリエット・ポッター? そうだな?」
彼女の口角はゆっくり上がった。
「またここで見えようとは。私達は奇妙な縁で繋がっているようだな?」
ベラトリックスはニヤニヤとハリエットの周りを回る。
「どうした? ちゃんと自分の足で立ててるじゃないか! あの時は上機嫌に歌ばっかり歌っていたのに。今はもうすっかり良くなったのか?」
ハリエットは震えるばかりで、何も答えない。ベラトリックスは平手でハリエットの頬を叩いた。
「返事をおし!」
「止めろ!」
「伯母上!」
その声に、ベラトリックスはやけにゆっくり振り返った。
「ドラコか? 騎士団におめおめと捕まったお前がどうしてここにいる?」
「俺たちが連れてきたんだ」
グレイバックが、もう何度目か分からない台詞を口にした。
「ハリー・ポッターと共に」
「それは本当か?」
ベラトリックスは、指さされた少年を――ハリーをジロジロ見た。
「確かなのか? 闇の帝王にすぐさまお知らせしなくては!」
ベラトリックスは左の袖をまくり上げた。その腕に焼き付けられている闇の印に今にも触れようとした――。
「ベラ!」
ナルシッサが甲高い声を上げた。
「駄目です、ドラコを見れば、あのお方はすぐに粛清してしまう!」
「それが当然の報いだろう。あの方を裏切ったのだ!」
「失礼ながら」
グレイバックが割り込んだ。
「ドラコ坊ちゃんとポッター達を連れてきたのは我々ですぞ。そして我々こそ金貨を要求すべきで――」
「金貨?」
ポケットの杖を探り、ベラトリックスが笑った。
「お前は金貨を受け取るが良い。汚らわしいハイエナめ。金貨など私がほしがると思うか? 私が求めるのは名誉のみ。あの方の――あの方の……」
ベラトリックスは暗い目で隅の方をじっと見つめた。
「あれは何だ?」
「剣だ」
「私に寄越すのだ」
「あんたのじゃねえよ。俺のだ。俺が見つけたんだぜ」
けたたましい音がして、赤い閃光が走った。ハリエットには、その男が失神呪文で気絶させられたのだと分かった。仲間が怒って喚き、杖を抜く。
「ステューピファイ!」
ベラトリックスが叫んだ。
一対六でも、人さらいごときの適う相手ではなかった。ベラトリックスは並外れた技を持ち、良心を持たない魔女だ。人さらい達は全員その場に倒れ、グレイバックだけは両腕を差し出した格好で無理矢理跪かせられた。ハリエットは目の端でグリフィンドールの剣をしっかり手に持つベラトリックスの姿を捕らえた。
「この剣をどこで手に入れた? これはスネイプがグリンゴッツの私の金庫に送ったものだ!」
「……あいつらのテントにあった」
グレイバックが掠れ声で言った。
ベラトリックスは血相を変え、イライラとその場を歩き回る。
「もしも本当にポッターなら、傷つけてはいけない。……闇の帝王はご自身でポッターを始末することをお望みなのだ……しかしこのことをあのお方がお知りになったら……」
ベラトリックスは再びナルシッサを振り返った。
「私がどうするか考える間、捕虜達を地下牢に――」
そして、ハッと何かに気づいたように口をつぐむ。
「いや、止めだ。こいつらはしもべ妖精とお友達をしている。呼ばれても困る……。そいつらだけ地下牢にぶち込んでおけ」
ベラトリックスが指さしたのは、ディーンと、彼と同じ縄で背中合わせに縛られている小鬼のグリップフックだ。
ナルシッサは一瞬戸惑ったが、やがて狼人間に向かって言った。
「捕虜を地下牢に連れて行きなさい」
グレイバックは唸りながら、ディーンとグリップフックを掴んだ。ベラトリックスから投げ返された杖を受け取り、地下牢へと引き連れていく。
ベラトリックスは残りの捕虜達をなぶるように見ながら、その合間をぐるぐる回る。
「さて……誰を尋問しようか……穢れた血か……血を裏切る者か……」
その足が、ハリエットの前で止まった。
「それとも、お前でもう一度遊ぼうか?」
「止めろ!」
「止めてください!」
ハリーとドラコが、同時に叫んだ。
「止めてください……伯母上」
ドラコが前に進み出た。
「ハリエットを傷つけないでください」
「ドラコ?」
ベラトリックスはゆっくり彼を見た。
「私に命令するつもりか? 裏切り者のお前が、この私に?」
そしてドラコの周りをゆっくり歩く。
「お前はあのお方を裏切ったのだな? 騎士団に捕まったのではなく、自ら手を貸したのだな? それで、今はポッターなどに協力していると?」
「騎士団に手を貸したのは事実です」
ドラコは目を伏せて言った。
「どうしてもハリエットを助けたかったから……。ハリエットさえ助かればそれで良かったんです」
「どうして今はポッターと一緒にいる? 絆されたか?」
「もともと、ハリエットがどうしてもと言うので一緒に行動していただけです。ハリエットがそう言い出さなければ、誰がポッターなんかと」
ドラコがひどく冷めた顔で言った。ロンがハーマイオニーの背中で叫んだ。
「マルフォイ! この裏切り者!」
ベラトリックスは、この野次に気をよくしたようだった。
「そうだ……そうだったな。お前が一時の気の迷いで――」
ベラトリックスは、苦虫を噛みつぶしたような顔になった。
「半純血なぞに惑わされたことがあったとしても、間違っても穢れた血や血を裏切る者と親しくするわけがなかった」
「ハリエットには手を出さないでください」
「いいだろう。ドラコ、こちらへ。ワームテール、小娘も連れてこい。ただし縄は縛ったままだ」
ドラコは、縛られたままナルシッサにひしと抱き締められた。ハリエットはハリーと繋がっていた縄を切られ、ベラトリックスの後ろに立たされる。
「尋問は……そうだな。穢れた血にしよう」
ベラトリックスはローブの下から銀の小刀を取りだした。ハーマイオニーをロンから切り離し、髪の毛を掴んで部屋の真ん中まで引きずり出す。
「ハーマイオニー!」
ロンが大声を上げ、縛られているロープを振りほどこうと身もだえし始めた。
「ハーマイオニー!」
「剣をどこで手に入れた? どこだ?」
「見つけたの! 見つけたのよ!」
「他には何を盗んだ? 他に何を手に入れたんだ? 本当のことを言え! クルーシオ!」
ハーマイオニーがけたたましい悲鳴を上げた。その場をのたうち回って襲いかかる苦痛から逃れようとするが、それは適わない。どこまでも――どこまでも、ついて回る。
ハリエットの頭に、何かがフラッシュバックした。黒い魔女に――何度も何度も磔の呪文をかけられる地獄の日々――客間と地下牢だけが全ての世界だったあの頃――。
「止めて!」
ハリエットはペティグリューの腕から逃れ、転がるようにしてハーマイオニーの前に身を投げ出した。
「お願い……駄目……止めて!」
黒い魔女を前にしても、ハリエットはそれほど恐怖を抱かなかった。まだ記憶が――不完全だった。
「私が――私が話すわ!」
「ハリエット! 止めろ、僕が代わりに!」
「……いいだろう」
ハリーは必死になって叫んだが、聞き入れられなかった。ベラトリックスはにたりと笑ってハリエットに向き直る。
「では聞く。お前達はこの剣をどこで見つけた?」
「池よ」
ハリエットは端的に言った。
「ディーンの森の池で見つけたの」
「お前は嘘をついている!」
ベラトリックスは小刀をハリエットの首に突きつけたまま地面に押し倒した。
「私には分かるんだ! お前達はグリンゴッツの私の金庫に入ったんだろう! 本当のことを言え、本当のことを!」
「違う――嘘じゃない! 本当のことよ!」
「他には何を盗んだ? 他に何を手に入れたんだ? 本当のことを言え! さもないと、この小刀でお前の身体に私の名を刻んでやる! 二度と私のことを忘れられないように!」
ぐいっと襟を下に引き下げ、ベラトリックスはその肌の上で躊躇なく小刀を引いた。一瞬後に、痛みがやってくる。ハリエットは喘いだ。
「ハリエット!」
「でも――でも、偽物だった!」
ハリエットの脳裏に、ネビル達三人の顔が浮かんだ。彼らが危険を覚悟で盗みに入った剣は、贋作だった――。
「あなたの金庫になんか、入ったことはないわ! それは本物の剣じゃない! ただの模造品よ!」
「偽物? ああ、上手い言い訳だ――」
「小鬼よ!」
ハーマイオニーが叫んだ。
「小鬼に聞けば良いわ。小鬼なら、剣が本物かどうか分かるわ!」
ハリエットはひやりと背筋に冷たいものが走った気がした。
ハーマイオニーは、何を言い出すのだろう? 小鬼ならば、剣が本物だとすぐに突き止めてしまう――。
だが、ハーマイオニーの顔は諦めているようなものではなかった。
「よし、グレイバック、地下牢から小鬼を連れてこい」
グレイバックと共に小鬼が連れてこられると、ハーマイオニーは起き上がろうとしてもがいた。投げ出してあった彼女の足に躓き、グリップフックが躓く。
「伯母上」
母親の手を振りほどき、ドラコがベラトリックスに近づいた。
「ハリエットはもう傷つけないでください。約束してください……」
「この小娘が逆らったのがいけないんだ」
ベラトリックスが苛立ったようにハリエットを睨み付けた。ハリエットは、彼女の肩越しに、ハーマイオニーが転んだグリップフックに何かを囁くのが見えた。
「ワームテール! 小娘を見張っておけ!」
押しやられたハリエットをペティグリューが慌てて受け止めた。そのまま彼女はグリップフックに近寄り、剣を彼に渡す。グリップフックは、グリフィンドールの剣を両手で持ち上げた。
「どうだ? 本物の剣か?」
「いいえ。偽物です」
ハリエットは息を詰めていた。
「確かか? 本当に偽物なのだな?」
「確かです」
ベラトリックスの顔に安堵の色が浮かび、緊張が解けていった。
「よし」
ベラトリックスは軽く杖を振って、小鬼の顔に深い切り傷を負わせた。悲鳴を上げて足下に倒れた小鬼を、ベラトリックスは脇に蹴り飛ばした。
「それでは」
ベラトリックスが勝ち誇った声を出した。
「闇の帝王を呼ぶのだ――」
ベラトリックスが袖をまくり上げたとき、ナルシッサが金切り声を声を上げた。
「駄目――駄目よ! その前に、ドラコを隠すの!」
「ええい!」
忌々しげにベラトリックスがナルシッサの腕を振り払った。
「シシー、ならお前が連れて行け! 早くしろ!」
「ポッター!」
ドラコの声がした。――と思ったら、杖が十センチほどの低空を飛び、ハリエットの目の前を横切った。その杖はハリーのすぐ足下に転がり、ハリーは縛られた両手でそれを拾い上げる。
「ステューピファイ!」
事態に気づいたベラトリックスがすかさず失神呪文をハリーに放ったが、ハリーはすんでの所で横に転がり、ソファの後ろに逃げ込んだ。
その後は、同時に色々なことが起こった。まず、ロンが――何を思ったか――すぐ側のルシウスに体当たりした。ドラコが今度は『ウィーズリー!』と叫び、転がっていた人さらいの杖を蹴り飛ばした。ハリーがソファから飛び出し、ベラトリックスに武装解除を放つ。ルシウスはロンを押しのけ、息子を失神させようと連続で呪文を放った。
「クリーチャー! クリーチャー!」
混乱の中、ハリエットも叫んだ。一瞬後に、姿現しの音が響き渡る。
「お呼びでしょうか、ハリエット様――」
ペティグリューが、しもべ妖精に杖を向けるのが分かった。ハリエットはペティグリューに力一杯ぶつかった。ペティグリューは体勢を崩し、ハリエットと一緒になって床に倒れ込む。
「地下牢にディーンがいるの! 逃がして! 他にも捕まっている人がいたらその人達も!」
「し、承知いたしました、ハリエット様――」
クリーチャーは、この混沌とした騒ぎに最大限動揺しながらも、従順に姿くらましした。ベラトリックスが吠える。
「おのれ――おのれ!」
ベラトリックスは激高しながら、ハリーから飛んでくる閃光を避け、そして逆に磔の呪文を飛ばした。
「ワームテール、その娘をやれ!」
ひいっと叫びながら、ペティグリューはハリエットに馬乗りになった。組み敷いた少女に震える手で杖を向ける。
「ペティグリュー!」
ハリーが叫んだ。と同時に、彼の杖先から赤い閃光がほとばしった。それは真っ直ぐペティグリューの所へ飛んでいったが、ベラトリックスは同じ閃光を放ち相殺させる。
「ピーター!」
ハリーはまた叫んだ。
「僕はお前の命を救ったのに! 父と母だけでなく、お前は妹まで奪うのか――!」
ハリエットとペティグリューの目が合った。色の薄い小さな目に、衝動的な憐れみが見え隠れした。
ペティグリューの杖先はだらりとしていた。今なら、今ならその杖を取れる――。
ハリエットが杖を奪うのと、ペティグリューの瞳孔が恐怖で広がるのは同時だった。ペティグリューは杖を取り返そうとしたが、彼の腕はもう彼の意志に従わなかった。ペティグリューの銀の指が、情け容赦なく持ち主の喉元へと動いたのだ。
「――っ」
ヴォルデモートが一番臆病な召使いに与えた銀の道具は、武装解除されて役立たずになった持ち主に矛先を向けたのだ。ペティグリューは憐憫の報いを受けた。ハリエットの目の前で、ペティグリューは絞め殺されようとしている。
「止めて!」
ハリエットはペティグリューの喉をグイグイ締め付けている金属の指を外そうとした。しかし無駄だった。ペティグリューの顔から血の気が引いていく。
「ステューピファイ!」
「アバダ ケダブラ!」
ハリエットの呪文の一瞬後に、緑の閃光が向かって来た。ペティグリューは失神し、しかし銀の手はなおもペティグリューを殺そうとしていた。ぐらりと揺れたペティグリューの身体――いや、銀の手に、ベラトリックスの死の呪いが当たった。銀の手はミシミシと音を立ててひび割れし――瞬間、砕け散った。
まるで全てがスローモーションに見えた。ペティグリューは仰向けにゆったりと倒れ、彼越しに未だこちらに杖を向けているベラトリックスがいると気づいた瞬間、彼女の後ろから武装解除の呪文が放たれた。杖が宙を飛び――そしてドラコの手に収まる。ハーマイオニーは地面に転がっていた杖を拾い上げ、今まさに息子に失神呪文をかけようとしているルシウスに武装解除をかけた。獰猛な狼人間はロンに飛びかかり、ハリーが彼に失神呪文を放つ。
「ドラコ! ハリエットを! 逃げろ!」
「ビルの家へ!」
ハーマイオニーも叫んだ。隅で頭を抱えていたグリップフックと剣を引っつかみ、姿くらましをする。
ルシウスはもはや、力尽くでドラコから杖を奪おうとしていた。ハリエットは駆け寄りながら彼に妨害の呪文を放った。父の腕から逃れ、よろめいたドラコは、ハリエットとしっかり手を掴んだ。ドラコがその場で回転し、ハリエットも引きずられるように回り出す。
視界の隅に、ベラトリックスが凄まじい形相で銀の小刀を振りかぶっていた。
「駄目よ!」
しかしそれを、ナルシッサが必死になって押さえる。
「ベラ、止めて!」
そして二人の姿はぼんやりとした姿になり、やがてかき消えた。