■炎のゴブレット

19:第二の課題


 クリスマスの翌日は、皆揃いも揃って寝坊した。昨夜のパーティーのことを話しながら、そういえばとハリーとロンは庭で偶然耳にしたハグリッドとマダム・マクシームの会話を話して聞かせた。何でも、ハグリッドは半巨人だという。

 ハリエットはその情報のどこが慌てるような所なのか分からなかったが、ロンの方は巨人の恐ろしさについて語った。そういった偏見のないハーマイオニーは、全ての巨人が暴力的だというわけではないと言い切った。

 ハグリッドが半巨人であっても、四人の友達であることに変わりはない。だが、世間はそうでなかった。

 あるとき、ハグリッドが魔法生物飼育学の授業を休んだと思ったら、日刊予言者新聞が、『ダンブルドアの「巨大」な過ち』というタイトルで、ハグリッドを痛烈に批判したのだ。ホグワーツを退校処分になった身で教師になったこと、授業で危険な生物を取り扱い、生徒に怪我をさせていること、それだけでなく、ハグリッドが半巨人であることも暴露されていた。

 すぐに四人はハグリッドに会いに小屋に行ったが、彼は返事もしてくれなかった。

 そんな最中、ホグズミード行きが許された。ハグリッドのことは気にかかったが、折角のお出掛けだ。透明マントも被らず、意気揚々と四人で出掛けた。

 残念ながら、ホグズミードにもハグリッドの姿はなかったが、代わりに三本の箒にリータ・スキーターの姿があった。ハリーやハリエット、果てはハグリッドまで彼女には嫌な思いをさせられていたので、果敢にハリーやハーマイオニーは彼女に絡んでいった。

「また誰かを破滅させるつもりか?」

 嫌味も通じず、スキーターはハリーを見て笑った。

「ハリー! 素敵ざんすわ! こっちに来て一緒に――」
「お前なんか、一切関わりたくない。三メートルの箒を間に挟んだって嫌だ。ハリエットだけでなく、ハグリッドにまであんなことして!」
「読者には真実を知る権利があるのよ。継承者が誰だったのかとか、ハグリッドが実は何者だったのかとか――」
「あなたって最低の女よ」

 ハーマイオニーは歯を食いしばって言い放った。

「記事のためなら何にも気にしないのね」
「馬鹿な小娘の癖して――分かりもしないのに分かったような口を利くんじゃない!」
「行きましょう」

 冷たい目で睨み付け、ハーマイオニーは店を出た。出口に近づいたとき、ロンはスキーターの自動速記羽根ペンQQQが羊皮紙の上を飛ぶように動いているのが目に入った。

「ハーマイオニー、あいつ、きっと次は君を狙うぜ」
「やるならやってみろだわ! 次は絶対にやっつけてやる!」


*****


 翌日、ハリーは、興奮した様子で金の卵の謎を解き明かしたことを話してくれた。それと共に、スリルのある校内徘徊についてもだ。

 金の卵の金切り声は、水につけると歌声に変わった。その歌声が言うには、湖に入って水中人を見つけ、そして一時間以内に大切なものを取り戻すことだという。

 就寝時間後、監督生の風呂でそれを解き明かしたハリーは、途中でフィルチ、スネイプ、ムーディと遭遇した。透明マントを被ってはいたが、階段に足を挟まれ、身動きが取れなかったハリーは、あわやスネイプに見つかるという所で、ムーディに助けられた。ムーディは、ハリーの忍びの地図に興味を示していた。『バーテミウス・クラウチ』がスネイプの研究所でウロウロしていたこともあわせて話すと、ムーディは地図を借りたいと言ってきた。彼に恩もあったので、ハリーはそのまま快く了承したのだという。

 謎を解き明かした後は、実際にどうやって水の中で呼吸をするかという方法に取り組んだ。四人は手分けして読書をしたが、水中でヒトが生き延びるための方法なんてものはない。

 一日、二日と日が過ぎていき、ついには第二の課題前夜になってしまった。それでも四人は諦めず、図書室に籠もっていたところ、フレッドとジョージがハリエットとハーマイオニーを呼びに来た。なんでも、マクゴナガルがお呼びだという。ただでさえ時間がないというのに、戦力が二人も抜け、ハリーはことさらに落ち込んだ。談話室で落ち合うことを約束し、四人は別れた。

 マクゴナガルの部屋には、既に幾人かがいた。チョウ・チャンと銀髪の小さな少女、マクゴナガル、そしてダンブルドアだ。

「あなた達には、第二の課題の手伝いをして欲しいのです」

 皆が集まったのを確認し、マクゴナガルが話し始めた。

「第二の課題は、湖に囚われた大切なものを奪い返すというものです。そしてあなた方は、代表選手達それぞれの大切なもの。あなた達には、湖の中に一時間いてもらう必要があります」

 四人の少女は、大人しくその先を待った。一時間なんて、どうやって潜っていればいいのだろう。

「君たちに眠りの魔法をかけ、眠った状態で湖に沈めることになる」

 ダンブルドアが後を引き継いだ。

「もちろん呼吸はできる。代表選手は一時間で君たちを取り返さなくてはならん。じゃが、もし失敗したとしても、待機している先生方が君達を救助してくれる手はずじゃ。もちろんその間君たちに命の危険はない。何か質問はあるかの?」

 皆は首を振った。不安があるとすれば、代表選手の方だろう。

 ハリエットとハーマイオニーは顔を見合わせた。結局活路を見いだすことなく置いてきてしまったハリーのことが心配だったのだ。

 その日は、別室で寝泊まりをし、課題が始まる少し前に魔法をかけられ、湖に沈められた。眠っているときの意識はもちろんなかった。そのため、次にハリーに会えたのは、湖上の上だった。身を切るような水の冷たさに目を白黒させたし、すぐ側にハリーと、なぜかフラーの妹までいるのを見て辺りをキョロキョロした。

「どうしてフラーの妹さんもいるの?」
「フラーが現れなかったんだ。僕、この子を残しておけなくて」

 ハリエットは目を見開き、そして微笑んだ。やはりハリーだと思った。

「助けてくれてありがとう。無事で良かったわ」
「うん」

 ハリーは照れたような顔で笑った。

 それから、二人はフラーの妹を両隣で支えながら岸に向かった。岸辺に上がると、まずマダム・ポンフリーが大きな毛布で包んでくれた。すぐさま三人にフラーが近づいてくる。

「ガブリエール! ガブリエール! 生きているの? 怪我してないの?」
「大丈夫」

 ハリーは喘ぎ喘ぎ答えた。もう疲労困憊だったのだ。

 フラーはガブリエールを見つけると、妹をしっかり抱き締めた。

「水魔なの……私、襲われて……ああ、ガブリエール、もう駄目かと……」
「よくやったわ、ハリー!」

 毛布に包まれながらハーマイオニーもやってきた。

「できたのね、自分一人でやり方を見つけたのね!」
「ああ、うん、まあね」

 ハリーは何やら口ごもっていたが、その場では聞き返せなかった。

 先生達が協議をしている間、フラーはガブリエールを助けてくれたハリーとハリエットの頬にキスをした。こんな温かい――ある意味冷たかったが――キスを受けたのは生まれて初めてだったので、双子はドキマギした。

 協議が終わると、点数が発表された。鰓昆布を使ったハリーは、最初に到着したが、他の人質をも助けようとして制限時間をオーバーしてしまったことを道徳的に評価され、四十五点を与えられた。第一の課題とあわせると、セドリックと同点一位である。ハリー達三人は飛び上がって喜んだ。

 その後は、第三の課題の日付を連絡され、終了となった。その日のグリフィンドールの談話室も、また盛大なパーティーが開かれ、ハリーの勇姿が讃えられた。