■不死鳥の騎士団
10:会合
ホグズミード会合についての声かけは、順調に行われていた。とはいえ、ハリーもロンも週二回のクィディッチの練習があるため、声かけは主にハリエットとハーマイオニーの二人が行った。ハーマイオニーは監督生の上、三人よりも圧倒的に多い授業を取っているにもかかわらず、余裕綽々と日々を過ごしていた。しもべ妖精のために洋服を編む時間も作っているほどだ。
ハリエットは、昨年は継承者騒ぎもあったため、あまり声かけに貢献できないのではないかと思ったが、ハーマイオニーはその辺りも考慮して、知り合いを取り繕ってくれた。
「セドリックよ」
ハーマイオニーはまるで秘密ごとを話すかのように声を潜めた。
「ええ、そう。セドリックはきっと興味を持ってくれるわ。でも、七年生だし、もし参加しないってことになっても、他の人にもこの話を伝えてくれるようお願いして。あの人、いろんな人から慕われてるから、警戒心なく広められると思うの」
「分かったわ!」
ハリエットは張り切ってその任務を引き受けた。
が、引き受けたは良いものの、セドリックはなかなか捕まらなかった。元々彼は二年も先輩だし、寮も違う。最高学年ということで、学年度末には試験も控えているので、その準備で忙しいようだ。
ようやく声をかけることができたのは、その日の夕方、彼が友達と大広間へまさに入ろうとしているその時だった。
「セドリック!」
ようやく見つけた嬉しさでハリエットが声を張り上げると、セドリックは驚いたように振り返った。
「どうしたの?」
「話があって……」
ちらりとセドリックの友達に視線を向ける。セドリックはこれだけで分かってくれた。
「先に行ってて」
友人から離れ、セドリックは一人でハリエットの元にやってきた。
「外に行こうか?」
「あ、いいえ、この辺りで大丈夫。誰にも聞かれなければ」
大広間の入り口から少し離れ、影の方に移動した。外にまで行くほどの用事でもない。ハリエットは真剣な表情で話し始めた。
「私たち……四人である計画を建てているんだけど、セドリックも良かったらどうかなと思って」
「計画?」
「ええ。アンブリッジ先生、理論ばっかりで、全然実践練習させてもらえないでしょう?」
「うん、それは僕も悩んでた。七年生は『N・E・W・T』の試験もあるし、どうしても実践の練習はしたいなって」
「そうよね! 私たちも同じことで悩んでて……それで考えたのが、私たちで闇の魔術に対する防衛術を練習したらどうかってこと。ハリーを先生にして」
「ハリーが先生? それはいいね」
セドリックは爽やかに笑った。
「僕、ずっとハリーの守護霊の呪文が気になってたんだ。あれも教えてもらえるのかな?」
「ええ、たぶんそうなると思う。私も、一番何ができるようになりたいかって言うと、守護霊の呪文なの」
「格好良いよね」
「本当に」
意外なところで共通点が見つかり、二人は笑った。
「じゃあ、セドリックも参加してくれる?」
「もちろん。こちらこそよろしく」
「ありがとう。じゃあ、このことについて、一度皆で話し合う必要があるんだけど、十月の最初の週末はホグズミード行きでしょう? その時に、『ホッグズ・ヘッド』に来て欲しいの。いいかしら?」
「うん、大丈夫だよ」
「あ、あと、もう一つお願いがあって」
ハリエットは窺うようにセドリックを見た。
「できれば、セドリックの方からもこの計画を他の人に伝えてもらえないかしら? セドリックってその……人望があるし、いろんな人と知り合いじゃない? 興味がありそうな人に伝えてもらえたら、すごく助かるんだけど……」
「もちろんだよ。興味を持ちそうな友達が何人かいるんだ。ハッフルパフの子にも声をかけてみる」
「ありがとう! じゃあお願いね!」
ハリエットは軽く手を振ってセドリックと別れた。まだまだやることはたくさんあるが、ホグズミード行きが一層楽しみになった。
*****
ホグズミード行きの日は、少々風が強かったが、よく晴れた朝から始まった。
三人はすぐに『ホッグズ・ヘッド』へ向かった。ホッグズ・ヘッドは、三本の箒とは違って、少し――いやかなり――くたびれた感じの店だった。看板もボロボロで、風でキーキーと音を立てている。
ホッグズ・ヘッドの中も、外装と大して違いはなかった。小さくみすぼらしい、ひどく汚い部屋だった。バーにいる客は、全て顔を隠しており、見るからに異様な雰囲気だった。
バタービールを四本注文し、とりあえずテーブルに腰掛けた。ハリーはずっと落ち着かない様子でキョロキョロ辺りを見回していた。
「そろそろよ」
ハーマイオニーが時計を見て言った。
すると、まるで示し合わせたかのようにパブのドアが開いた。そこから急にどやどやと人影が飛び込んでくる。
先頭にセドリック、続いてチョウとその友達、ネビルとディーン、ラベンダー、パーバティ、パドマ、ジニー。その他にもルーナやケイティ、アリシア、アンジェリーナ、コリンとデニス、アーニー、ハンナ、それからハリー達の知らないハッフルパフの生徒数人と、レイブンクローの生徒もいた。しんがりはジョージとフレッド、リーの三人だ。
ハリーはポッカリ口を開けて唖然としていた。
「何……この団体」
「あなたから教えてもらいたいって人たちよ」
「せ、セドリックもいる」
「それがどうかした?」
「七年生だ。僕より年上だ」
「だから?」
「どうして僕が彼に教えられることがあるの? セドリックを先生にすべきだよ」
ハリーはジトッとハーマイオニーを見た。
「セドリックが教師役をした方が断然――」
「ハリー!」
声を上げたのはハリエットだった。ハリーを睨むようにして見る。
「セドリックは、ハリーに守護霊の呪文を教えてもらいたいって言ってたわ。それに、ここに集まってくれた人たちは、ハリーが先生役をするってことを聞いて集まってくれたの。今更自信がないから先生役を変わるなんて、そんなの無責任すぎると思うわ」
「ハリー、自信を持って」
ハーマイオニーに背中を叩かれ、ハリーは項垂れた。その間に、ロンは思っていたよりも人数の多い集団のために椅子を持ってきたし、フレッドはバタービールを人数分注文してくれた。
ジョッキを片手に、皆がハリー達のいるテーブルに腰掛けた。皆がハリーを見つめていた。
「えー、あー、こんにちは」
珍しくハーマイオニーの声はうわずっていた。
「それでは、皆さん、今日はなぜここに集まったか、分かっているでしょう。私の考えでは、つまり、いい考えだと思うんだけど、闇の魔術に対する防衛術を学びたい人が――つまりアンブリッジが教えてるようなクズじゃなくて、本物を勉強したい人という意味だけど――」
盛大に緊張しているようなので、ハリエットは心配になったが、なぜかここで、急にハーマイオニーはいつも通り――いや、それ以上になった。
「なぜなら、あの授業は誰がどう見ても闇の魔術に対する防衛術とは言えません! それで私、この件は自分たちで自主的にやってはどうかと考えました。単なる理論ではなく、本物の呪文を。試験も大切だけど、それ以上に、私たちはきちんと身を守る訓練を受けなければならない。なぜなら……」
ハーマイオニーは大きく息を吸い込んで最後の言葉を放った。
「なぜなら、ヴォルデモート卿が戻ってきたからです」
たちまち、あちこちで悲鳴が上がった。半ば予想通りの反応である。しばらく無言で場が落ち着くのを待ったが、それよりも早くブロンドのハッフルパフの生徒が食ってかかった。
「例のあの人が戻ってきたっていう証拠はどこにあるんだ?」
「まず、ダンブルドア先生がそう信じていますし――」
「ダンブルドアがその人を信じてるって意味だろ」
彼はハリーを顎でしゃくって見せた。
「君、一体誰?」
ロンがぶっきらぼうに聞いた。
「ザカリアス・スミス。それに僕たちはその人がなぜ例のあの人が戻ってきたなんていうのか正確に知る権利があると思うな」
「ちょっと待って。この会合の目的はそういうことじゃないはずよ」
「そうだ。それに、例のあの人が戻ってきた状況については、散々僕が説明しただろう? まだ足りないのか?」
セドリックの言葉に、ザカリアスは詰まった。セドリックはハリー達に顔を向けた。
「割って入ってごめん。続けてくれ」
ハーマイオニーはこっくり頷いた。そんな彼女に、ハリーは僕がいく、という合図をし、息を吸いこんで話し始めた。
「皆は、防衛術を学びたくてここに集まってくれたと思う。でも、もしそうでないのなら、このまま席を立ってほしい。僕は、ヴォルデモートのことについて話すために来たわけじゃないから」
静かな声だったが、その場に響き渡った。誰も動かなかった。ザカリアスでさえ、ハリーを見つめたままだった。
「それじゃ、さっきも言ったとおり、皆が防衛術を学ぶためのやり方を決める必要があるわ。会合の頻度とか場所とか――」
参加者の中には、もちろんクィディッチの選手がいる。練習が重ならないように、訓練は週に一度と決めた。ただ、大勢で呪文の練習ができるような場所はまだ見当もつかないので、一旦保留となり、見つかり次第連絡ということになった。
最後に、ハーマイオニーは皆にリストに名前を書かせた。誰が来たか分かるように、そして何より、この集まりのことをアンブリッジに言いふらさないと約束させるために。
これを聞いて何人かは躊躇ったが、結局全員名前を書いた。
約一名問題児のような生徒はいたが、とりあえずその日の会合は盛況とみて間違いなかった。