■別視点

10:聖夜の裏側で


20.11.28
リクエスト

*炎のゴブレット『聖なる夜』*

 ダンスパーティーだなんて、幼少の頃から嫌というほど参加してきており、今更張り切って準備に時間をかけることなんてない。

 だからこそ、ドラコがギリギリまで身支度をしなかったのは、決して今夜のことを憂鬱に感じている訳ではないのだ。決して。

 ただ、憂鬱とまではいかなくても、苛立ちは常に腹の底にあった。幾日も前から、腹立たしさは薄れることなく、むしろ色濃く今でも思い出すだけで怒りが増す。

 ――ハリエット・ポッター。

 ドラコのダンスパートナー。パートナーになることを承諾しておいて、急に手のひらを返したように、『別に誘われた人がいるから行けない』などとほざいた少女。

 ドラコとて、前々からパンジーやら他の女生徒やらに誘われてはいたが、何となく気が乗らず、返事を先延ばしにしていただけであって、相手には困らなかったのだ。その自分が、ほんの気まぐれではあったものの、折角誘ったのに。向こうだって嬉しそうにしていたくせに。

 自分が袖にするのは構わない。だが、いざ自分がそうされると、何よりもプライドが刺激された。

 いつまでも部屋でお菓子を食べているクラッブとゴイルを追い立てて談話室まで行くと、ピンクのドレスがドラコの視界を塞いだ。

「ドラコ! とっても素敵な装いね! あなたとパーティーに行けて幸せだわ」

 ドラコのパートナー、パンジー・パーキンソンは、フリルだらけのパーティードレスを翻し、ドラコの腕にがっしりとしがみついた。甘い香水の匂いが鼻につき、ドラコは反射的に眉をしかめる。

「あんまりくっつくな。歩きにくいだろう」
「そんなこと言って! パートナーはこのくらいの距離感が当たり前だわ」

 マルフォイ家の嫡男として、ドラコもエスコートを叩き込まれている。確かにパンジーの言い分はその通りだ。単に虫の居所が悪かった自覚はあるのでドラコは大人しくなる。

「それよりも、どう? このドレス」
「ああ……似合ってる」
「ありがとう!」

 嬉しそうに頬を染めて笑うパンジーからは、純粋な好意をバシバシ感じ取れる。最初から彼女をパートナーにしておけば、自分のプライドが刺激されることもなかっただろうに、とドラコはふと思う。マルフォイ家には及ばないが、パーキンソン家だって立派な聖28一族の一つだし、昔から交流もある。――直前になって急にパートナーを降りるだなんて非常識なことをするはずもないのに。

 談話室にはまだ生徒が大勢残っていた。他寮に比べてスリザリンは閉鎖的で、パートナーは大体同じスリザリン生のため、玄関ホールで待ち合わせ、なんてことにはならないのだ。

 クラッブ、ゴイルのローブに食べかすがついてないか厳しくチェックした後、ドラコは横にパンジー、後ろにスリザリン生を引き連れ、階段を上り始めた。まだ開場してないため、玄関ホールは騒がしく、大勢の生徒でごった返している。階段を上りきったとき、ふと視線が目の前の一団に吸い寄せられた。

 ハリー・ポッターとその仲間達。中にはもちろんドラコのパートナーであるハリエットもいる。目を丸くした彼女と視線が合ったが、ドラコはすぐに逸らした。ドラコの複雑な心中に従って睨んでも良かったが、どうしてもそんな気分にはなれなかった。ハリーやロンに対してだって、嫌味を言う気分ではない。ドレスローブに着られているハリーも、年季の入りすぎたロンのローブも、いつものドラコならば機知に富んだ嫌味を三つは口にできていたはずが、今は縫われているかのように口を開きもしなかった。

「代表選手はこちらへ!」

 マクゴナガルの声に従って、代表選手とそのパートナーが移動を始める。彼らが通りやすいように人垣が割れ、それに応じてぞろぞろと生徒が移動する。ハリエットもその中の一人だった。ドラコの意志とは裏腹に、視線は彼女の後を追う。

 ハリエットは、淡いエメラルドグリーンのパーティードレスを身につけていた。色合いはスリザリンを彷彿とさせるが、赤毛とうまくマッチしていて、草原に咲く一輪のガーベラを彷彿とさせた。珍しく髪をまとめているのが、彼女を大人びた雰囲気にさせていて、訳も分からないままドラコをむしゃくしゃさせた。

「ハリエット!」

 そんな彼女に気安く近づいたのは、一人の男子生徒だ。パッと見ただけでは名前は分からず、ドラコは目を細めて顔と名前を一致させる。

 ――そうだ、彼は確かジャスティン・フィンチ-フレッチリー。ハッフルパフの同級生だ。

 よりにもよってハッフルパフ!

 ドラコは更に苛立った。自分を袖にしてまで選ぶだけの魅力が彼にあるとは到底思えなかった。

「ドラコ、ドラコ! さっきの見た!? ハーマイオニー・グレンジャー! あの出っ歯の出しゃばりがどんな魔法を使ったのかしら、まさかクラムのパートナーだなんて!」

 パンジーの興奮した声をいなしながらも、ドラコはハリエットとジャスティンの後ろ姿を睨み付けるのを忘れない。パートナーのことなんてすっかり忘れて楽しそうにしていて何よりだ。ジャスティンがまるで我が物顔で彼女のむき出しの背中に手を当て、エスコートしている様も鼻につく。しまいには、身を屈め、ハリエットの耳元で恋人のように何か囁く始末。クリスマスに開かれるパーティーでは男女のカップルが誕生しやすいというが、今夜も無事一組のカップルが誕生しそうで何よりだ!

 ふんと鼻で笑い、視線を外したドラコだが、パンジーは逆にようやくハリエットの存在に気がついたようだ。

「珍しい組み合わせね。継承者と被害者!」
「被害者? ……ああ、あのハッフルパフか」

 言われてみれば、確かにジャスティンの名は、二年前石にされた時にホグワーツ中に知れ渡っていた。だが、それがどうしてハリエットとパートナーになるに至ったのだろうか。

 ハリエットが被害者となった生徒達に謝罪したことはドラコも知っている。彼らから許しを得たことも。

 その流れで、二人はパーティーに出るほど仲良くなったというのか?

 苛立たしい気持ちで、ドラコは無理矢理二人から視線を外した。パンジーの方も二人から興味を失っていたようで、誰と誰が一緒にいるだとか、誰のドレスが綺麗だとか、早口でまくし立てていた。

 代表選手が入場を終えると、一般生徒達もその後に続いた。大広間は今宵のクリスマス・ダンスパーティーのために様変わりしていたが、ドラコはあまり周囲に頓着していられる余裕はなかった。意図しているわけではないのに、妙にハリエットとジャスティンのカップルが目につくのだ。料理の味なんてほとんど何も覚えてないし、パンジーの話にろくに相づちを打てたかも自信がない。近くにミリセントやダフネがいたから、彼女の話し相手には困らなかっただろうが、何か粗相はしてなかっただろうか。

 いざ代表選手が踊る番になって、ハリーの拙いダンスを笑ってやろうとようやく気を取り直せば、代表選手達の向こう側にまたしてもハリエットの姿を見つけ、ドラコはハリーの不器用なダンスを見ていることができなかった。

 やがて代表選手のダンスも終わり、他の生徒達もダンスフロアに出始めた。息巻いたパンジーが嬉しそうにドラコの腕を引っ張る。

「私達も行きましょう!」
「ああ」

 パンジーに連れられる形でドラコもダンスフロアに進み出た。――仮にも男が情けない。ここに来てようやくそのことに思い至ったドラコは、できるだけ頭の中を真っさらにしてパンジーをリードした。彼女は常に真っ直ぐで情熱的な視線を向けてくるので、ドラコはどこに目を向けて良いやら分からなかった。だが、さすが聖28一族といった所か、パンジーのダンスは見事だった。息ピッタリに二人はダンスを終える。調和が取れた無理のないダンスは余計な疲労もない。

「すっごく楽しいわ!」
「それは良かった」

 挨拶とばかり二人が礼をした所で、次の曲が始まった。先ほどの曲よりずっと速いテンポの曲だった。パンジーはまたドラコの手を取ろうとしたが、それよりも先に『あの』と声がかかる。

「ヴぉくと踊ってくれませんか?」
「えっ!」

 声をかけたのはダームストラングの生徒で、声をかけられたのはパンジーだった。嬉しそうに頬を紅潮させ、しかしすぐにドラコを窺い見る。

 通常、ダンスはパートナーを変えるものだ。ドラコはすぐに頷いた。

「僕は少し休んでる」
「――分かったわ。また後で踊りましょう!」

 『約束よ!』という声を後ろに、ドラコは他の生徒のダンスの邪魔にならないよう端に向かって歩けば、視界の隅に、グリフィンドールの双子のどちらかと、アンジェリーナ・ジョンソンが激しく踊っているのが見えた。

 二人は何ともはた迷惑なダンスをしている。形式も何もあったものじゃない。他の生徒も巻き込まれることを恐れてか、ザザッと素早く道を空ける。鈍くさいことに逃げ遅れた生徒がいたことにはすぐに気づいた。しかもその赤毛の主はドラコもよく知っている人物で。

「ごめんよ!」

 フレッドにぶつかられ、ハリエットが尻餅をつかなかったのは、ひとえにドラコが駆け寄って彼女を抱き留めたからに他ならない――いや、違う。自分はただ向こう側に行きたかっただけであって、その途中、たまたまハリエットが転びそうになったのを不可抗力にも助けたことは自分の意に反している。

 そうは思ったのに、ハリエットを抱き留めた瞬間その身体からふわりと立ち上る香りに思考が停止した。下から見上げられたハシバミ色の瞳はいつもと同じなのに、格好が相まって、やっぱりドラコの心をざわつかせる。

「ハリエット!」

 ジャスティンの声で、ドラコはすぐに我に返った。顰めっ面でハリエットの肩をぐいっと押しやると、そのまま無言で立ち去る。ハリエットとジャスティンの様子を傍で見ていたくはなかったし、惨めな気分を味わうのもごめんだった。

 人混みをかき分けた先は、軽食が用意されているテーブルだ。ギリーウォーターを一息に飲み干し、そしてまた新たなグラスを片手に壁際へ向かって歩く。

 冷たい水は渇いた喉を潤わせてくれたが、頭を冷やしてはくれなかった。ちびちびとグラスを傾けながらも脳裏に呼び起こされるのは、どうしたってハリエット・ポッターの姿で。

 苛立たしげに必死に別のことを考えようとするドラコの努力を嘲笑うかのように、実際にヘラヘラとした笑みを浮かべたジャスティンまでもがやって来て。

 適当にあしらっていれば、彼はマルフォイ家嫡男たるドラコのプライドを大いに刺激しながら去って行った。言いたいことは山ほどあったはずなのに、ハリー・ポッター相手なら勝手に動き出す己の口が、今はてんで役に立たないのが余計に腹立たしく、ドラコは未練がましくその後ろ姿を睨み付けていた。すると、なんとハリエットがジャスティンに連れられて会場の外へ出て行こうとするのが見えたではないか!

 まだ寮に戻るには早すぎる時間だ。そもそもあの男がそう易々と寮に戻すわけがない。十中八九散歩でもしないかと誘ったのだろう。

 ――学習しないのか、あの女は!

 はらわたが煮えくりかえりそうだった。ジャスティンにか、ハリエットにか、それは分からない。沸々とこみ上げる熱くドロドロした感情に、ドラコは己の足が勝手に動き出すのを感じていた。


*****


 二人の姿はすぐに見つかった。だが、チラホラ見られるカップルと同じように連れ立って歩くハリエットとジャスティンの姿を見ていると、自分は何をしているのかという純粋な疑問が湧き起こり、情けなくなった。

 ハリエットに警戒心が足りないというのは事実だが、それはドラコが心配するような範疇ではない。そもそも、彼女は望んで彼のパートナーになったのだ。二人きりで外に出たいと思ったのなら、ドラコに心配されるいわれなどないだろう。

 帰ろうかとも思ったが、二人はどんどん奧へ行く。そこらの空いてるベンチに座り、語り合えば良いものを、わざわざ人気の少ない所へ行こう行こうとする様子に、何か作為的な思惑が感じられる。

 散々躊躇ったが、ドラコは結局ついていくことにした。あまり会話のない男女が、人気のない場所へ行こうとしていることが引っかかったし、何よりここまで来て引き返すのもドラコの癇に障ったからだ。せめてもと、ジャスティンのの弱みでも握らなければ来た甲斐がないというもの。

 しばらくすると、二人は足を止め、立ったまま何やら話し始めた。一方的にハリエットが話しているようだが、距離が遠く、内容までは分からない。焦れたドラコは、茂みに身を隠しながら近くへ寄った。

「――もし……あなたが私にされたことでどうしても我慢がならないのなら、それをスキーターにぶつければいいわ。私はそれに関してあなたを卑怯だとも思わない。して当然だと思うもの」

 そこで聞いた話は、まさに青天の霹靂だった。ハリエットは、好きな人に誘われたからドラコの方を断ったわけではなく、継承者の件で脅されていたからやむを得ずジャスティンと行くしかなかったのだ。

 ドラコは、底辺まで落ちていた自尊心がみるみる回復していくのを感じた。こうなってしまえば、つい先ほど、自分に向かって挑発してきたジャスティンの姿がいっそ滑稽にも思える。普通に誘ってオーケーをもらった自分と、脅迫まがいのことをしてまでパートナーの座を手に入れたのに、結局嫌がられているジャスティン。

「大人しく僕に従ってればいいんだよ!」

 優越感にニヤニヤと口元を緩めていたドラコは、どうやら険悪な雰囲気になりつつある二人に意識を元に戻した。あろうことか、ジャスティンは激情し、杖を取り出しているではないか。

 男の風上にも置けないような輩だが、しかし、ハリエットの方にも非はある。自分の方が立場が上と思っている男に苦言を口にすれば逆上されることは分かっているだろうに、わざわざこんな人気のない場所で話をしようとするなんて。

 ジャスティンが杖を振り上げたと同時に、ドラコも咄嗟に彼に杖を向けていた。ハリエットはこちらに背を向けていて様子は分からない。だが、のこのここんな所まで赴いた彼女のことだ、きっと自分が助けなければ為す術もなくまたやられるに違いない――。

「エクスペリアームス!」

 何とも勇ましい声で放たれた呪文は、見事にジャスティンの杖を弾き飛ばした。途中まで振り上げたドラコの杖は中途半端に浮いたままだ。

 断じて言うが、ドラコが放った武装解除呪文ではなかった。彼が茫然と見つめる先――そこには、凜々しい姿で杖を上げたハリエット・ポッターの姿が。

 ドラコは、どうにも形容しがたい気持ちで杖を下ろした。いよいよ自分が今ここにいる理由がよく分からない。ハリエットの危機を救えるのであればせめてもの存在理由ができるが、そのハリエットが相手をぶちのめしてしまえば、自分はただの覗きになってしまう。

「……私、もう行くわね」

 折角回復したプライドのこともあり、ここにいることがバレないよう祈っていれば、ハリエットは杖を下ろし、城に向かって歩き始めた。ドラコは一瞬混乱する。

 ジャスティンの杖は、彼から数メートルと離れていない。彼の意識は失われていない。つい先ほど呪いを受けそうになったにもかかわらず、彼女は、その敵に無防備に背を晒すと?

 ドラコの嫌な予感は当たった。ジャスティンが素早く立ち上がり、杖の方に駆け寄ったのが見えたからだ。ハリエットは気づかない。ドラコは舌打ちと共に失神呪文をジャスティンに向かって放った。

「馬鹿かお前は!」

 思わずと茂みから飛び出し、ドラコはハリエットを前後に揺すぶった。もちろんちゃんとジャスティンの意識が失われているのを確認してからの行動だ。

「お前は! まだ完全に武装解除してない奴に背を向けたんだ! やるなら完璧にやれ!」

 ドラコがあんまり揺すぶるので、ハリエットの綺麗にまとめられた髪がちょっとほつれてしまっていた。しかしそれが逆に、薄くメイクを施した彼女の相貌と相まって色香を感じさせ――ドラコに正気を取り戻させた。

「……助けに来てくれたの?」
「――っ、自意識過剰だな! たまたま通りかかっただけだ――」
「……こんな所で何をしている?」

 動揺のあまり、声を抑えると言うことをしなかったドラコは、見回りをしていたスネイプに見つかってしまった。

 減点と小言を受け、大人しく城に帰る間際、ハリエットは言葉こそないものの、落ち込んでいるようだった。一体何に落ち込んでいるのか。

 ことの事情を理解したドラコではあるが、それでも彼女にパートナーを断られたという過去が消えるわけではない。文句を一言でも言わないとスッキリしない。

「随分と男の趣味が悪いんだな」

 それ以前に、彼女の危機感のなさを注意する意味でも。

「大人しく兄の後ろをついて回った方が安全なんじゃないか?」
「……そうかも」

 言い返しもせず、ハリエットはポツリと零した。

「ハリーはよく頑張ってるのに、私は……どうしてうまくいかないのかしら」

 なんと言ったら良いのか迷いあぐね、ドラコは黙った。

 正直な所、全ての元凶はハリーではないかと思っていた。英雄気取りのハリー・ポッターのせいで、不可抗力にもハリエットが悪目立ちしてしまうのだ。兄がハリーでなければ継承者の件もここまで大騒ぎにはならなかっただろう。もともと、彼女は闇の魔術に操られていただけだ。そのことはダンブルドアが何度も言及したのに、ハリー・ポッターが兄で、その上彼が代表選手になった今のこの時期だからこそ、面白おかしく憶測や陰口が広まってしまっただけだ。彼女自身は、気が弱く、心配性で、むしろ優等生の部類に入る。反してハリーは自分含む多くの者から恨みを買っている。彼自身も問題行動が多い。どうしたってその妹にも注目がいってしまうのは仕方のないことなのだろう。

「……パートナーのこと、本当にごめんなさい」

 不意にハリエットが立ち止まった。

「でも……でも、私、ドラコがパートナーに誘ってくれたとき、本当に嬉しかったの。それは本当よ」

 どうだろうな、とドラコは思った。きっと彼女は誘われたことが・・・・・・・嬉しかったに違いない。継承者の件で周りから遠巻きにされる中、異性に声をかけられることは彼女の自尊心を救ったはずだ。ザビニの思惑にも気づかずに浮かれていたのが良い証拠だ。きっと相手が自分でなくても、同じようなことを言ったに違いない。

 もう期待を裏切られまいと無意識のうちに自分で予防線を張っていることにも気づかずに、ドラコは口を開きかけた。

 ジャスティンとパーティーに行ったのは仕方なくだったのだという真実はもうすっかりドラコの中で冷め切っていた。代わりに、彼女は相手が誰だろうと喜んでパーティーに行ったはずだという失望感に襲われていた。

 そのまま誰も来なければ、ドラコはもしかしたら何か取り返しのつかないことを言っていたかもしれない。だが、魔法学校のパーティーを写真に収めたかったコリンの登場により、それはうやむやになった。

 無理矢理写真を撮られた後、ドラコは寮までハリエットを送ろうとした。にもかかわらず、それは彼女に断られる。

「パートナーも待たせてるんでしょう?」

 パートナーではない自分には、彼女を寮まで送る口実がないと言われているようで。

 自分をパートナーの座から下ろしたのは他でもない彼女なのに。

「今日はありがとう。……おやすみなさい」

 小さく頭を下げて、ハリエットは階段を上った。ドラコは彼女が階段を登り切る前にくるりと後ろを向き歩き出した。パートナー出ない自分には彼女を見送る義務もないだろう。

 大広間へ戻ったドラコは、何人かとダンスを踊り、そしてたらふくご馳走をお腹に収め、眠そうなクラッブ、ゴイルを回収し、就寝した。

 なぜかは分からないが、その日、ハリエットがジャスティンをぶちのめす瞬間を夢に見た。寝起きの気分はそれなりに良かった。