■過去の旅
09:泣きみそ
談話室のソファにて、ハリエットは、魔法薬学の宿題などそれこそスニッチのような速度で終わらせ、編み物に精を出すハーマイオニーに質問を投げかけていた。
「お父さんとお母さんの誕生日プレゼントは何が良いかしら?」
ピタリ、とハーマイオニーの手は止まり、ハリエットに目が向けられた。その視線にはどうあっても『呆れ』が含まれていた。
「一応聞くけど、二人の誕生日はいつ?」
「一月と三月よ」
「まだ随分先じゃない」
「でも、そんなのあっという間よ」
ハリエットは不安そうに答えた。二人の誕生日がやってくるのが先か、自分たちが元の時代に帰るのが先か、ハーマイオニーには否が応でも分かってはいたが、この場では口に出さなかった。
「ハーマイオニーは、今までどんなものをお父さんとお母さんにあげたの?」
期待を込めた目で問われ、ハーマイオニーは、いよいよ本格的に編み物の手を止め、真面目な顔で考え込む。
「そうね、私があげたのは……」
思いつく限り、ハーマイオニーは揚げ連ねた。ハリエットをそれを真剣な表情で羊皮紙に書き留める。ハーマイオニーがハッとしたときには、すでに羊皮紙は真っ黒になっていた。
「……あのね、一番書かないといけないのは、あなたのお父さんとお母さんは、今は十五歳だってことよ。私の両親へのプレゼントじゃ参考にならないわ。友達の誕生日を祝う感覚でいいのよ」
「でも……」
「ほら、それに誕生日よりもクリスマスの方が早く来るでしょ? そっちを考えていた方が良いんじゃない?」
「――っ、そうだわ! クリスマスもあったわ!」
この時代に来てからというものの、どうにも親友の頭のネジが一本外れているような気がして、ハーマイオニーはとてもとても不安だった。
「――ハリエット」
新しい羊皮紙に替え、デカデカと『クリスマスプレゼント』と書いた所で、背後からリリーに呼びかけられ、ハリエットは文字通り飛び上がった。羊皮紙の文字もグイッと歪む。
「ごめんなさい、驚かせちゃった?」
「ううん! ううん、そんなことないわ」
ハリエットは力強く首を振りながら、羊皮紙を後ろ手に隠す。
「二人とも、一週間どうだった? 授業で分からない所はあった?」
ソファに腰掛けながら、リリーは慈愛に満ちた表情で尋ねた。
リリーは、一日が終わると、いつも何か困ったことはなかったかといつも談話室で優しく話しかけてくれた。ハリエットはこれ幸いとばかり、何にも分からないような純粋な顔をして、あれが分からない、これが分からないとリリーにたくさんの質問を投げかけていた。ハーマイオニーは少し呆れていた。
「そうね……あの、この前魔法薬学のレポートが出たんだけど、全く分からなかったの」
ハリエットは熱の籠もった目でリリーを見つめた。――レポートなど既に完成していたにもかかわらず。
「あの、もし良かったら、リリーに教えて欲しくて……」
「いいわよ。図書室に行きましょうか? ここはかなり騒がしいから」
リリーは絶対零度の視線を談話室の隅に向ける。そこでは、ハリーとロンを引き込んで、悪戯仕掛人の四人が次なる悪戯を話し合っている最中だった。リリーの冷たくも熱い視線を受け、ジェームズはパチンとウインクを返した。
「行きましょう。ハーマイオニーも、図書室へ行くのは初めてよね?」
「え? ええ」
ハーマイオニーは慌てて何度も頷いた。若干三年生にして、おそらくジェームズやシリウスの倍以上図書室に通った自信があったが、しかしそんなこと口が裂けても言えまい。
『魔法学校の図書室なんてワクワクするわ!』と白々しい嘘をつきながら、ハーマイオニーはリリー達と一緒に談話室を出た。
「それにしてもハーマイオニー、あなたの勤勉さは噂に聞いてるわ。授業で一番に手を上げるって。三年生に編入したばかりなのに、本当にすごいわ」
「そ、そんなこと……」
「この調子なら、試験で一番になるのはハーマイオニーになるかもしれないわね」
「そうね。何せ、ハーマイオニーは、今までだってずっと一番だったのよ」
なぜかハリエットが自慢げに胸を反らす。リリーはきょとんとし、ハーマイオニーは慌てた。
「ハリエット!」
「なにで一番だったの?」
「あっ――えっと、マグルの学校で! マグルの学校でも、ハーマイオニーは学年一位だったのよ!」
危うく口を滑らせる所だった。ハリエットは冷や汗を流した。
「それは素晴らしいわ。ハーマイオニーは努力家なのね――あっ、そこ消える階段だから気をつけて!」
「えっ」
話しながらだったので、リリーは失念していた。慌てて声をかけたが、もうその時にはハリエットとハーマイオニーは『消える階段』にさしかかっていて――だが、難なく二人はそこを飛び越した。まるで、そこを飛び越す習慣ができているかのように。
「あ――あら、二人とも、もう覚えたの? そこの階段が消えるって」
「あっ、ええ! ここを案内してくれた先生が、口を酸っぱくして注意してくれたから! だから嫌でも覚えたの!」
「そう……」
リリーはしばらく訝しげな顔をしていたが、それ以上突っ込むことはなかった。ハリエットとハーマイオニーは顔を見合わせてホッと息をついた。
図書室につくと、リリーが小声で中を案内してくれた。それが終わると、ハーマイオニーは、瞳をキラキラさせて、自分たちの時代よりも中身がガラッと変わっている本棚に吸い寄せられるようにしてどこかに行き、リリーもまた、魔法薬学におすすめの本を借りてくると姿を消した。ハリエットは一人で図書室内を見て回った。ぐるぐると自由に動き回る中、闇に魔術に関する本棚の所に、一人の少年が佇んでいるのに気づいた。熱心に何かの本を読んでいる。その横顔に見覚えがあり、ハリエットは彼を見つめたままだった。
視線を感じ、彼もまた顔を上げ、ハリエットを見た。
「リリー」
少年は柔らかく微笑んだ。彼は黒髪で、鉤鼻で、少し顔色が悪く――その特徴は、ハリエットの知るセブルス・スネイプに共通していた。だが、同時に彼のこんな微笑を見たことがなく、ハリエットは困惑する。
「最近図書室に来ないからどうしたのかと思った。監督生の仕事が忙しいのか?」
「あの……スネイプさん?」
ハリエットが首を傾げれば、スネイプは眉根を寄せる。パタンと本が閉じられる。
「どうかしたのか?」
「私――ハリエット・ポッターよ。リリーじゃないわ」
「ポッター?」
スネイプの眉が不愉快そうに寄せられる。ハリエットは慌てて付け足した。ジェームズとスネイプの仲が悪かったというのは、叫びの屋敷でも聞いた話だ。
「私、三年生に編入してきたの。マグル生まれで、グリフィンドール生の……。あっ、リリーなら図書室にいるわ。勉強を見てもらうために、一緒に来たの――」
「セブ?」
声が聞こえたのか、本棚からひょっこりリリーが顔を出した。
「ああ、ハリエットといたのね。驚いたでしょう? 私とそっくりで」
「ああ……」
スネイプはあからさまに驚いた顔でリリーとハリエットとを見比べた。
「紹介するわ。彼女はハリエット・ポッター。私と同じマグル生まれなの。急に三年生に編入になったから、分からないことがたくさんあるみたい。セブもハリエットが困ってたら助けてあげて」
「よろしくお願いします」
ハリエットが頭を下げると、スネイプは素っ気なく頷いた。
「それで、こっちはセブルス・スネイプ。私の幼馴染みなの。彼、魔法薬学が得意なのよ。私に教わるより、セブの方が良いかもしれないわ」
「あっ……ええ」
ハリエットは曖昧に笑った。現代で魔法薬学の教授をしているのだ、今はその卵であるスネイプに教われば、それは確かに百人力だろう。だが、ハリエットは魔法薬学で一位を取りたい訳ではない。ただリリーと一緒にいたいだけだ。
だが、そんなことは口が裂けても言えず、何故だかハリエットはスネイプから魔法薬学を教わることになった。スネイプも微妙な顔だ。なぜ僕が教えないといけない、とでも言いたげな顔だ。ハリエットも同じような心境だった。
たくさんの本を抱え、ハーマイオニーが戻ってくると、この奇妙な光景に目を白黒させた。彼女もまたリリーに紹介され、陰気な少年がスネイプだと分かると、興味深げにジロジロ彼を見る。スネイプが不快そうに咳払いをすると、ハーマイオニーは慌てて本に目を落とした。
誰の得にもならないこの勉強会が終わると、ようやくスネイプとハリエット達は大広間に向かうことになった。
「ハリエット、セブはどうだった? 分かりやすかったでしょう? 私も魔法薬学については、いつもセブに教わってるの」
「え、ええ……教えてくれてありがとう、ス、スネイプ……さん?」
「スネイプでいい」
スネイプは素っ気なく言った。ハリエットはハーマイオニーとこっそり目配せする。仮にも未来には先生となる人に――しかもかなり厳しい人だ――呼び捨てというのはかなり難しい相談だった。
とはいえ、リリーとスネイプが幼馴染というのは初めて聞いた情報だった。しかも、この様子を見るに、かなり仲が良かったようだ。現在のスネイプからはそんな様子は欠片も見受けられなかったので、ハリエットは今でも信じられないくらいだ。彼が自分たちの知るセブルス・スネイプとは全くの別人なのではないかと疑ってしまうくらいには。
大広間に到着すると、スネイプはスリザリンなので、すぐに別れることになった。ハリーとロンはジェームズたちと共に既に食べ始めていた。ジェームズがパッと手を上げてリリー達に手招きをしたので、ハリエットもパッと喜色を浮かべた。だがすぐに心配そうな顔になって、リリーをうかがい見る。彼女は大層渋い顔をしていた。
「ポッター達と食べたいの?」
「あ、でも、リリーが嫌なら……」
「ハリーとロンはいいわよ。でも、ポッターはうるさいから……」
未来の妻は、至極辛辣なことを口にした。そんなこととは露知らず、ジェームズは諦めずに手をこまねき続ける。
「まあいいわ。あなた達も早くここに慣れないといけないものね。いろんな人と親交を深めるのは悪くないことだし……でも、いい? ポッター達四人は、悪戯仕掛け人って団体を名乗って、好き放題たちの悪い悪戯ばかりしてるの。くれぐれも影響を受けちゃ駄目よ、いいわね?」
「ええ!」
本当に分かっているのか疑わしい表情でハリエットは元気よく返事をした。何だか本当に母親から注意を受けているような気分になって幸せだったのだ。絶対に真面目に聞いてないと判断していたハーマイオニーは、呆れてため息をついた。
グリフィンドールのテーブルでは、ジェームズ達四人が固まって座り、ハリーはジェームズの隣、ロンはシリウスの隣に座っていた。リリーは迷わずハリーの隣に座り、ハリエットもまた彼女の隣に座った。ハーマイオニーはロンの隣である。
ポッター家双子の視線は、ハリエットが着席するときに交錯した。ほんの一瞬だったが、母さんと一緒に勉強してたなんて羨ましい、お父さんと遊んでたなんて羨ましい、という互いの欲望溢れる思いが双方ともに伝わった。
「エバンズと宿題でもしてたの?」
離れてはいるが、ジェームズは嬉々としてハリエット達に話しかけてきた。
「ええ、魔法薬学が苦手だから……。でも、図書室でスネイプに教わってたの」
言い終わってから、ハリエットはハッとして固まった。ジェームズ達とスネイプが犬猿の仲というのは叫びの屋敷でも聞いていたのに!
案の定、ジェームズはムスッとした顔になり、シリウスはやれやれと天井を仰いだ。
「スニベルスには魔法薬学と闇の魔術しかないもんな」
「スニベルス?」
興味を惹かれ、ロンが聞き返した。シリウスはニヤリと笑う。
「あいつのあだ名さ。あいつ、すぐに泣きべそかくから」
「ブラック、そういうこと言うのは止めて。皆が影響されるわ」
「ハリーとロンは気に入ってるみたいだけどね」
リリーのしかめっ面に、ジェームズは悪びれた風もなく返す。
見れば、ハリーとロンは肩を揺らして笑いを噛み殺している所だった。ハーマイオニーが非難の目で見ると、二人は誤魔化すように咳払いをしたが、全くうまくいっていなかった。
「ジェームズ達は何してたの?」
険悪になる雰囲気を元に戻そうと、ハリエットが明るい声を上げた。
「うん? まあ……ちょっとしたお楽しみを計画中さ」
「また変なことやろうとしてる訳じゃないでしょうね?」
リリーはジトっとジェームズを睨みつける。その視線すらもジェームズには甘い熱線に思えるらしく、鼻の下を伸ばした。
「やっぱり監督生としては不安かい? でも大丈夫。リーマスのお墨付きだよ」
「リーマスもあなた達に引きずられるたちだから心配してるんでしょう。全くもう……」
深々とため息を付き、リリーは本格的に食事を始めた。これ以上ジェームズ達の悪戯話に付き合っている暇はないと判断したらしい。
そして前を向いた彼女は、ハリエットの控えめな料理の量に目を細めた。
「ハリエット、遠慮しないで何でも取っていいのよ。それだけじゃお腹すくでしょう?」
「え? ええ……」
「ほら、チキンは? 入れてあげる」
「あ、ありがとう」
皿の上にこんもりと料理が増えていくのを見ながら、ハリエットはもごもごお礼を言った。良かったわね、とハーマイオニーが慈愛の目で眺めていれば、彼女も欲しいのだと勘違いしたリリーはハーマイオニーにも料理を盛り付ける。
「こうしてると、本当に姉妹に見えるね」
食事を終えたにもかかわらず、まだ着席し、テーブルに頬杖をついてリリーを思う存分眺めていたジェームズは、感嘆のため息を漏らす。
「なんて幸せな光景なんだろう。ここに天国がある」
「無視よ無視」
幼気な子ども達が毒されると、リリーはツンとしたままハリエットに言う。ただ、その時にはもうハリエットは嬉しそうに頬を赤らめていたので、とき既に遅しといったところか。
「君達だって、まるで兄弟みたいだよ」
ジェームズの惚気を受け取ったのは、意外にもリーマスだった。
「見た目だけじゃなくて、何ていうか……うまく言葉では言い表せないけど」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
ジェームズはニマニマしながらハリーの肩に腕を回した。
「僕も初めてハリーと会ったときは、他人の気がしなかったね。もちろんハリエットもだ」
「よく言う。ハリーはともかく、ハリエットはエバンズそっくりだから調子のいいこと言ってるだけだろ」
「失敬な! そんなんじゃないさ!」
「でも、こうなってくると、二人のご両親の顔が見てみたいね。写真は持って来てないの?」
発言の主はピーターだった。一番端の席に座っていたため、今の今までその存在を忘れていたくらいだ。
彼の存在に――そして、彼の質問に、ハリーとハリエットは黙り込む。ロンとハーマイオニーもだ。
ロンはあからさまに怒った顔をしたし、ハーマイオニーは痛ましい表情を浮かべた。ハリエットは悲しそうに俯き、ハリーはというと、直接本人を睨みはしないものの、目の前のゴブレットを、まるで敵かのように激しく睨み付けている。
突然静かになった四人に、ジェームズ達は困惑することしかできない。
「な、何かまずいこと聞いた? ハリー?」
沈黙に耐えきれず、ピーターはハリーを見た。が、ハリーは応えない。相変わらず――いや、むしろもっとゴブレットを睨み付ける視線に力がこもった。
「――っ」
「二人のご両親は亡くなったの」
代わりに答えようとしたハリエットを押しとどめ、ハーマイオニーが凜とした声で言い放った。
「亡くなったのよ。二人が赤ちゃんの頃に。まだ一歳だったわ」
何かを訴えかけるように、ハーマイオニーは真っ直ぐピーターを見た。その圧力に耐えられず、彼は慌てて目を伏せた。
「――っ、ご、ごめん……」
「ううん……」
あまりにピーターがしょげているので、ハリエットは小さく首を振った。それでもなお、九人の間には気まずい沈黙が流れる。
「どうしたの?」
食事を終え、すぐ側を通りかかったメリー・マクドナルドがリリーに声をかけた。
「リリーがポッターと一緒に食事するなんて初めてじゃない? どういう風の吹き回し?」
「エバンズもついに僕の魅力に気づいたって訳さ!」
これ幸いとばかり、ジェームズは場違いな程明るい声を上げた。クスクスと呆れたような笑い声があちこちから上がる。
ジェームズの同級生と見られるグリフィンドール生が、ニヤニヤと彼に話しかける。
「ジェームズがエバンズの心を射止められるかどうかグリフィンドールの奴らで賭けをしないかって話になったけど、生憎と賭は成立しなかった。皆が皆ジェームズは一番あり得ないって賭けたがらなくてな」
「全く、なんて奴らだ!」
ジェームズが憤慨すれば、またも笑いが起こった。どうやら、ジェームズの求愛行動は、グリフィンドールではかなりの噂になっているようだ。この様子なら、ホグワーツ中の知る所にあるのかもしれない。
「ハリエット、ハーマイオニー、もう行きましょ。この人達と付き合ってると疲れてくるわ」
ふうとため息をつき、リリーは立ち上がった。二人もその後に続けば、ハリー、ロンも立ち上がった。
「僕たちも一緒に帰るよ」
「そうね。明日も早いし、今日はもうゆっくり休んだ方が良いわ」
「僕たちも――」
立ち上がりかけたジェームズは、リーマスに腕を引っ張られ、再び席につかざるを得なくなった。
「何するんだい?」
「ジェームズ……分かるだろう?」
小声でやり取りをしながらも、リーマスは決してジェームズのローブを離さなかった。
「じゃあ、また」
軽く挨拶をして、五人は大広間を出た。何となく、もう今日は悪戯仕掛人の四人とは会わない気がした。
談話室につくと、リリーは女子寮へ上がり、ハリー達は四人だけで暖炉近くのソファに腰を下ろした。ハリーは少し不機嫌そうで、ロンは空気を変えようと頭を捻らせる。
「そういえば、スネイプに勉強を教わってたって本当かい? どうしてスネイプなんかに?」
「成り行きよ」
ハリエットも困った顔で答えた。
「お母さんとスネイプ先生、幼馴染らしいわ。とても仲が良さそうだった」
「まさか! そんなの初耳だよ」
ロンは大袈裟に驚いた顔をした。
「スネイプの奴、君たちに厳しいじゃないか。いくらジェームズとスネイプの仲が悪いからって、あんな理不尽な事をする奴があるか? その母親と仲良しなら尚更」
確かに、言われてみればそうだ。
考えれば考える程謎は深まるばかりだ。
ロンはすぐに話題を変えた。
「それはそうと、君たちのパパ、最高だ」
ニヤリとロンは笑い、ハリーは少し興味を示したように前屈みになる。
「スネイプが泣きみそだなんて。元の時代に戻ったら皆で呼んでやろうよ。『スニベルス!』って」
「そんなことしたら、絶対に罰則の嵐だ。後悔はないけどね」
ハリーもおかしそうに応える。ロンは勢い込んで手を叩いた。
「じゃあ、今のうちに呼んでおこう! それなら悔いなく戻れるよ」
「全くもう……」
呆れたようにため息をつくハーマイオニーと共に、ハリーはクスクス笑った。ようやく調子が戻ってきたようで、ハリエットはホッと息をついた。