■繋がる未来―賢者の石―

22:死の淵にある者


 ドラゴンの飼い方、なんて本をなぜハグリッドが借りて行ったのか。

 有り難くないことに、その答えはすぐに判明した。ハグリッドに招待を受けた四人は、彼の小屋の中でドラゴンの赤ちゃんと対面したのだ。

「ハグリッド……まずいよ」
「まずいわけあるもんか。これは俺が苦労して取ってきた餌なんだから」
「そういうことじゃなくて! ドラゴンを飼うのは禁止されてるんだ。バレたらどんな罰を受けるか」
「それは分かっとる……」

 コガネムシのような瞳を細め、ハグリッドはそれでもノーバートと名付けたドラゴンに餌をやり続ける。
 何でも、ハグリッドは賭けで勝ってドラゴンの卵をもらったというのだ。パブで知り合った見ず知らずの相手だったというが、向こうは卵を厄介払いできて喜んでいたらしい。

「せめて外に放したら? 森で飼うとか」
「でも、ノーバートちゃんはまだほんの赤ん坊だ。そんなことできるか? 餌の取り方だって分かってねえ。この子はまだちっちゃいんだ。ママがいないと死んじまう」
「ファングだって可哀想よ」

 ハリーに続き、ハリエットもつい口を挟んだ。

「こんな目に遭って……。生き物にはそれぞれ生活するのに適した場所があると思うの」

 ファングの尻尾には火傷の跡があった。ドラゴンに火を噴かれたのだろう。包帯を巻き終え、ハリエットはファングの頭を撫でた。

「し、しかし……」
「一週間で三倍に成長したんでしょう? 二週間もしたらきっとこの家は壊れるわ」
「そ、そりゃ俺もずっと飼っておけんぐらいのことは分かっとる。だけどほっぽり出すなんてことはできん。どうしてもできん」
「君たちのパパに相談したらどうかな?」

 ロンがハリーを見た。

「魔法界の伝手がたくさんありそうだし、きっと何か良い案を思いついてくれるよ」
「……でも、こういう方面には疎いと思うよ。ドラゴンなんて……」

 あまりジェームズに頼りたくないハリーはそれらしい理由で消極的な態度を見せた。ホグワーツに入学してからというもの、周囲はジェームズとハリーを比較しようと躍起になる人ばかりだ。ロンがそういうつもりで提案したわけではないことは百も承知だ。だが、ハリーの方が過敏になってしまっており、余計にホグワーツでのことはジェームズには知られたくないし、関わってほしくないと思うようになっていた。

「ドラゴン、ドラゴン……。そうだ、チャーリー!」

 ジェームズ以外に誰か頼れる人は、と考えていたハリーは、唐突にパッと思いついた。

「チャーリー! 君のお兄さん! 確か、ルーマニアでドラゴンの研究をしてるんだろう? チャーリーにノーバートを預ければいい。面倒を見て、自然に帰してくれるよ」
「名案だ!」

 ロンも手を叩く。自分の兄よりも先に友達の父親が思い浮かんだのはどういうわけなんだろうとハリーは思ったが、深くは気にしないことにした。窺うようにハグリッドを見る。

「ハグリッド、どう?」
「……分かった。チャーリーなら俺も安心して預けられる」
「良かった! これで一安心ね」

 このまま赤ちゃんドラゴンとの同居生活が続けば、そのうちファングは真っ黒焦げになってしまっていただろう。

 ハリエットがファングを撫でると、彼は嬉しそうに首をもたげた。

「ねえ、でもそろそろ帰らないと。寮を抜け出したことがバレたら――」

 立ち上がったハリエットは固まった。窓の外に誰かいる。

「……マルフォイ?」
「…………」

 ハリエットと思い切り目が合ったことにドラコは驚いていたようだが、やがてゆっくり口元が弧を描く。嫌な笑い方だ。

「ま、待って!」

 身を翻し、歩き始めたドラコを見て、ハリエットは咄嗟に彼を追い掛けた。嫌な胸騒ぎがする。

 城へと向かうドラコの足取りはゆったりとしていた。そのため、すぐ追い付くことはできたが……それが余計に嫌な予感を強める。

「マルフォイ……どこへ行くの?」
「ホグワーツへ戻るんだ。当たり前だろう?」
「戻る……だけ?」

 一縷の望みをかけて恐る恐る尋ねれば、ドラコの足がピタリと止まる。

「僕が言いつけるんじゃないかって、そう心配してるのか?」
「……ちょっとだけ」
「なるほど、確かにそうだろうね。禁じられてるドラゴンを飼育し、君たちに至っては夜中に寮を抜け出した……。君の心配はごもっともだ」

 ドラコはわざとらしく頷く。

「でも、安心するといい。僕は告げ口なんて子供っぽいことするつもりはない」
「本当?」
「もちろんだ」

 得意げに言うドラコを信用し、ハリエットはそのまま彼を見送った。ハリーたちも追い付いてきたので、ハリエットは今のやり取りを報告した。

「現行犯で捕まえるつもりなんだわ」

 ハーマイオニーがいち早くドラコの本意を言い当てた。ちょっといい人だと思い直していたハリエットは肩透かしを食らった気分だった。

「今告げ口しても、ハグリッドがドラゴンを飼ってる、私たちは夜中に寮を抜け出した――それぞれで罰を受けるだけだわ。でも、私たちがドラゴンを逃がすのを手伝ったら共犯者になっちゃうもの」
「あいつもこういうことだけは知恵が回るよ」

 ロンが唇を尖らせた。

「なら、尚更早くチャーリーに連絡を取らないと。厄介ごとはさっさと片付けようぜ」

 その日のうちにロンはチャーリーに手紙を書いた。ハグリッドがドラゴンに魅入られ、ついに飼育を始めたこと、でもやっぱりホグワーツで飼うのは現実的でないので、チャーリーの所で預かってくれないかというものだ。

 それからしばらくして返事が戻ってきた。とても色よい返事で、土曜日の真夜中に一番高い塔でドラゴンを引き取ってくれるというものだ。

 四人は土曜日を今か今かと待っていた。たった数日待つだけのことだが、それがとてつもなく長く感じられた。日に日にドラゴンは成長していくし、小屋の中なんて、嵐が去った後かのようにぐちゃぐちゃだ。そのうちロンはノーバートに噛まれた手が大きく腫れ上がり、医務室に入院するまでに至った。土曜日はもう目前だったが、その上更に厄介ごとが増えてしまった。

「マルフォイに知られちゃったんだ。僕たちが土曜日にノーバートを預けようとしてること」
「どういうこと?」
「あいつ、本を借りに来たって言い訳で僕のこと笑いに来たんだ。僕が何に噛まれたか言いつけてやるって脅してきたんだけど、マダム・ポンフリーも信じてないようだったし、それはまだいいんだ。でも、マルフォイが持ってった本に、チャーリーからの手紙を挟んだままだったんだよ……」
「……土曜日は波乱の日になりそうね」

 ハーマイオニーは物憂げに額を手で押さえた。

「今更計画は変えようにないもの。チャーリーに手紙を送る暇はなさそうだし」
「でも、こっちに透明マントがあるってこと、あいつは知らない。まだチャンスはあるよ」

 問題は、透明マントの中にノーバートが隠れられる余裕があるかどうかだったが、こうなっては行き当たりばったりだ。四人は粛々と週末を待った。


*****


 そして来る土曜日深夜。ハリーたちの計画はすこぶる順調に進んだ。透明マントを被りながらハリーとハリエットが塔の上までノーバートを運び、無事チャーリーとその仲間たちに託すことができた。ドラコについては、塔に上がる途中、マクゴナガルに見つかり、罰則を言い渡されていたのを目撃しており、その点も心配はなさそうだ。全てが終わった安心感から、ハリーとハリエットはウキウキ螺旋階段を滑り降りる。ドラゴン問題が片付いたことで、二人はすっかり開放感に包まれていた。しかし、気づくべきだった。その開放感が例えだけではなかったことに。

「さて、さて」

 突然目の前にフィルチが現れ、二人ははたと足を止めた。透明マントを被っているので、彼が自分たちに気づくことはない。……のだが、目が合っていると感じるのは気のせいだろうか?

「これは困ったことになりましたねえ」

 しかし、それは気のせいではなかった。妙に開放感があると感じていたのは、ハリーたちが塔にマントを忘れてしまっていたのだ。

 そのまま二人はマクゴナガルの部屋に連れて行かれ、一人五十点の減点と罰則を言い渡された。そこにはドラコもいて、彼も同様の罰を受けることになった。ドラコがドラゴンのことを告げ口したが、マクゴナガルが信じなかったのが唯一の救いだ。しかし、彼がハリーたちを捕まえようとしている、と忠告しようとしたネビルまでもが寮を抜け出し、結果的に同じ罰を受けることになったので、状況が最悪なことに変わりはない。

 グリフィンドールは計百五十点の減点だった。クィディッチで優勝して得た得点のリードを一瞬にして失い、更には寮対抗杯でも最下位に転落してしまった。

 そのせいでグリフィンドール生からの視線が冷たいのは、決して気のせいではなかった。特にハリーへの態度は顕著だ。クィディッチチームを優勝に導いた彼は、一躍スターから嫌われ者に早変わりだ。

 皆に素っ気ない態度をとられることに傷心した傷が癒える間もなく罰則の日がやって来た。マクゴナガルに言いつけられたのは、禁じられた森でハグリッドの手伝いをするというものだ。

 しかし、禁じられた森には危険生物がたくさんいるのだというのは有名な話だ。リリーからも、決して近づくなと言われていた。ジェームズは、何てことない、何ならパパは散歩だってよくしていたさと口にしていたが、ハリエットは本気にしていなかった。ジェームズが冗談を言うのはこれまで何度もあったからだ。

「森には狼男がいるんだ。なのに夜中に行かせるなんて正気じゃない」

 フィルチから話を聞いて以降、ドラコはぶつぶつ呟いていた。

「狼男なんていにゃせん。危険な生き物だってな。扱いが気難しいだけだ」

 扱いが気難しい――何気なく付け足したその一言に危険が詰まっているのだが、知ってか知らずか、ハグリッドは悠長に続ける。

「だが……まあ、今夜やることはちょいと危険がつきまとう。最近何者かにひどく傷つけられたユニコーンが見つかった。今週になって二回目だ。皆で可哀想な奴を見つけ出すんだ。助からないなら、苦しまないようにしてやらにゃならん」
「そいつに僕たちが襲われたらどうするんだ」
「俺やファングと一緒におればこの森に住むものは誰もお前たちを傷つけはせん。二組に分かれるぞ」
「僕はファングと行く」

 ファングの長い牙を見てドラコが急いで言った。

「よかろう。断っとくが、そいつは臆病だぞ」

 そんなの聞いてない、と言いたげな顔になったドラコ。だが、鈍いハグリッドは見ていなかった。

「じゃあドラコとネビルはファングと一緒に。ハリーとハリエットは俺と一緒に行こう」

 そう提案したハグリッドだが、ハリエットはあまり賛成できなかった。ドラコがネビルに足縛りの呪いをかけたこともあるし、ネビルはただでさえ禁じられた森に怯えている。この組み合わせはよくないだろう。

 そう思ってハリエットはチラチラハグリッドの方を見て、何とか組み合わせを変更してもらえないかと伝えたつもりだったのだが――ハグリッドはその視線を誤解した。

「なんだ。ハリエットもファングと一緒がいいのか? 仕方ねえ。じゃあマルフォイとネビルとハリエットだ。ファング、三人のことをしっかり守るんだぞ」

 ハグリッドはファングを撫でた。ファングも少し及び腰のような気もするが、主人に応えるつもりで力なく鳴いた。

 ただ、この組み合わせに更に異を唱えるのはハリーだ。いじめっ子とハリエット、ネビルが一緒だなんてとんでもない。せめてハリエットと自分が代われば――というつもりでハグリッドを見たのだが、彼はまたも誤解した。

「なんだ? ハリーもファングがいいのか? 俺はそんなに頼りなさそうに見えるか?」
「いや、そうじゃなくて――」
「ハリー、あんまり我が儘言わんでくれ。さすがに俺一人は寂しすぎるぞ。後でファングと遊ばせてやるから……」

 なだめるようにポンポン肩を叩かれるハリー。違う、そうじゃないと言いたくて堪らなかったが、ハグリッドがさあ出発だと歩き始める。仕方なしについて行くしかなかった。

 森の中を歩き始めてしばらく、ハリーの予感はやはり的中した。ハリエットたちが向かった方角から赤い火花が上がったのだ。迎えに行ったハグリッドが言うことには、ドラコがネビルを驚かすという悪ふざけをしたらしい。ネビルがパニックになって火花を打ち上げたのだ。

 組分けは変更になり、ネビルとハリーが入れ替わった。正直、ハリーはハリエットもハグリッドと一緒の方が安心だと思ったが、ドラコと二人きりになるのは少し悩ましいものがあったので、黙っておくことにした。

 ハリー、ハリエット、ドラコ、ファングという組み合わせで改めて森の中を捜索することになったが、やはりこれもあまり良い組み合わせとは言えない。ハリーとドラコが口論してばかりなのだ。

「その犬、てんで役に立たないじゃないか」

 ハリエットの後ろにくっついて離れないファングを見てドラコが文句を言った。ハリーが思わず笑う。

「君よりも臆病みたいだね」
「何だと?」
「だってそうじゃないか。灯りを持ってるならせめて僕たちの前を歩いてくれよ」

 ハグリッドから預かった照明具はドラコが持っていたが、彼はなぜか最後尾を歩こうとするので先頭のハリーにまで灯りが届かないのだ。正直、杖灯りだけじゃ心許ない。

「僕がしんがりを務めてやってるのになんだその言い草は。じゃあいい。お前が持てよ」

 グイッとドラコがハリーに照明具を押しつけた。「どう」と有り難くなさそうに礼を述べ、ハリーはまた先頭を歩き始めた。

 しばらくして異変に気づいたのはハリエットだ。何か飛び出してくるのではと先を先を見渡すハリーたちとは違い、傷ついたユニコーンを探して下を見ていたからだ。

「ねえ、これ……」

 杖灯りで指し示す先には木の根元があり、そこに大量の血痕が飛び散っていた。傷ついた生き物がこの辺りでのたうち回ったのだろう。その先に開けた平地があり、ぼんやりと光って見えた。近寄ってみると、純白に輝くユニコーンが倒れていた。美しいたてがみが血に汚れている。

「そんな……」

 確認せずとも、もう息をしていないことは明白だった。だが、その時、ズルズルと何かを引きずるような音がして三人はピタリと身体を寄せ合う。ハリーが照明具を掲げると、暗がりの方から何かが這い出してきてくるのが見えた。頭をすっぽりフードで覆った怪しいその何かはユニコーンに近づき、傷口から血を啜り始める。

 ハリエットはぞわぞわっと鳥肌が立つのを感じた。あまりに理解できない光景だ。

「うわああああっ!」

 ドラコが叫び、一目散に逃げ出した。ファングもだ。大きく吠えながら森の中を駆けていく。

 この騒ぎにフードの影が気付き、近寄ってきた。ハリエットは急いでハリーの腕を掴み、逃げようとしたが――その時、ハリーはうめき声を上げてよろよろ倒れかかった。

「ハリー!?」

 何か呪いでもかけられたのかと思ったが、影が杖を持っている様子はない。呪文を唱える声も聞こえなかった。それなのになぜ。

 ハリーにハリエットの声が聞こえている様子はなく、ただ痛みを堪えるように額を押さえ、蹲っている。ハリエットは震えながら杖を構えた。怖くて堪らなかった。目には既に大粒の涙が膜を張っている。だが、ハリーを置いてはいけない……。

 対抗しようと杖を構えてはいたが、ハリエットのこれはただの見かけ倒しだった。実際は恐怖と混乱でろくに戦いの呪文を唱える準備はできていなかった。しかし、それでも救いの手はやって来た。ハリエットたちの上から何かがひらりと飛び越え、影に向かって突進していったのだ。ケンタウルスだ。

 影は、ケンタウルスの威嚇に恐れをなし、そのまままた暗がりの方へ姿を消した。ハリエットはポカンとしてその光景を眺める。

「怪我はないかい?」

 ケンタウルスがハリーを助け起こした。

「ありがとう……」
「もう痛みはない?」
「大丈夫」

 未だ額を手で押さえてはいるが、痛みは去ったようだ。

「あの、あなたは……」
「私はフィレンツェ。君たちはポッター家の子たちだね? 早くハグリッドの所に戻った方が良い。今、森は安全じゃない……特に君はね」

 フィレンツェはハリーを見つめた。ハリーはその意味を問おうとしたが、それよりも先にフィレンツェが膝を折った。

「私に乗れるかな? その方が早いから」

 ハリエットの腰はほとんど力が入らず、まともに歩けそうになかったので、フィレンツェのこの提案は有り難かった。

 二人がフィレンツェの背中に乗ると、彼は森の中を疾走した。目まぐるしく景色が変わっていく。

「ねえ、さっきのは何だったの?」
「ハリー・ポッター、ユニコーンの血が何に使われるか知っていますか?」
「ううん。角とか尾の毛とかを魔法薬の時間に使ったきりだよ」
「それはね、ユニコーンを殺すなんて非情極まりないことだからなんです。ユニコーンの血は、たとえ死の淵にいる時だって命を長らえさせてくれる。でも、恐ろしい代償も払わなければならない。自らの命を救うために、純粋で無防備な生き物を殺害するのだから、得られる命は完全ではい。呪われた命を生きることになるのです」

 フィレンツェの説明は分かりやすかった。だが、更に疑問が生まれる。

「一体誰がそんな必死に? 永遠に呪われるんだったら、死んだ方がマシだと思うけど」
「その通り。しかし、他の何かを飲むまでの間だけ生きながらえれば良いとしたら――完全な力と強さを取り戻してくれる何か――決して死ぬことがなくなる何か。ハリー・ポッター、今この瞬間に、学校に何が隠されているか知っていますか?」
「賢者の石!」

 ハリーが大声を上げた。

「でも、一体誰が……」
「力を取り戻すために長い間待っていたのが誰か、思い浮かびませんか? 命にしがみついて、機会を窺っていたのは……」

 ハリエットはぶるりと震え、ハリーにしがみついた。この冬、ずっと頭を悩ませていたものがついに全て繋がった瞬間だった。

 ヴォルデモート――ジェームズたちはあまり詳しく話したがらないが、彼がまだ生きていると予想していた。実際に最後にヴォルデモートと戦ったジェームズがそう言うのだから真実に違いない。だが、魔法使いたちは、十何年とヴォルデモートの消息が知れないので、彼が息絶えたものと思い込んでいる。そのことをジェームズはよく危惧していたのだが。

「大丈夫?」
「ええ……」

 ハリエットの震えが伝わったのか、ハリーが優しく声をかける。だが、それでもハリエットは安心できなかった。今この瞬間にも、ヴォルデモートが自分たちを見張っているのではないか。

 そう思うと、怖くて顔を上げることができなかった。