■不死鳥の騎士団
14:支配下で着実に
ハグリッドの一回目の授業に、当然のようにアンブリッジは現れた。その時扱っていたのはセストラルという、死を見たことがある者だけに見える翼のある馬だ。
査察中、アンブリッジはことあるごとにハグリッドを侮辱した。記憶力が悪いとか、身振りに頼らないと言葉を伝えられないとか、暴力を好む傾向にあるとか、大きな声でクリップボードにかき込むので、しょっちゅうハグリッドの集中は切らされた。生徒に授業のことを尋ねるのも、スリザリン生ばかりで、当然彼らもハグリッドのことを馬鹿にした答えを口にした。
自分の納得のいく査察が終わると、結果は十日後に送ると宣言し、アンブリッジは去って行った。
*****
クリスマス休暇は、ウィーズリー家からの招待を受けた。双子は盛大に喜んだが、しかしシリウスのことを思うと心からの喜びとはならなかった。
「お願いすれば、シリウスのことも招待してもらえるかしら」
「どうだろう。どっちにしても、ダンブルドアはシリウスがあの家から出るのを許可しないんじゃないかな」
「じゃあ、私たちの方から行くのは?」
「煙突飛行ネットワークも使えないのに、僕たちが二人だけであそこに行くのを許してくれると思う?」
「…………」
ハリエットは押し黙った。自分でも無理を言っているのが分かったからだ。
「シリウスに会いたいわ」
「……僕も」
どうしようもなく出てきた言葉は、誰にも解決できないまま空中に溶けて消えた。そのまま二人は、休暇前の最後のDA会合に向かった。ロンとハーマイオニーは監督生として、クリスマスの飾り付けをしたり、交代で廊下の見回りをしたりと忙しく仕事をしていた。
少し早めに必要の部屋に向かった二人だが、そこには驚くべきクリスマスの飾りで溢れていた。
百あまりの金の飾り玉が天井からぶら下がり、その全部にハリーの似顔絵とメッセージがついていたのだ。『楽しいハリー・クリスマスを!』
「ど、ドビー!」
犯人は明らかにドビーだ。ハリーはすぐに確信した。そして急いで飾り付けを外そうとしたが、ハリエットは気が進まない。
「可愛いじゃない、良いと思うわ。DAのリーダーはハリーなんだから」
「人ごとだと思って! こんなの恥ずかしいよ!」
「折角ドビーが飾り付けしてくれたのに、可哀想よ」
「可哀想なのはどっちだよ!」
飾り付けを外す、外さないの問答をしていると、セドリックとチョウがやってきた。ハリーは人生の最後という顔になり、ハリエットはしまったという顔になった。
皆でこの飾り付けを見たならば、拍子抜けしたり、和やかに笑ったり――中にはからかう者も出てくるだろうが――とにかく楽しい場になるはずだろうが、一足先にチョウに見られるなんて、ハリーとしては屈辱以外の何物でもないだろう。
「こ、こんばんは。素敵な……飾りね」
チョウは苦笑いした。ハリエットも同じ笑みを浮かべている自信があった。
「しもべ妖精のドビーがやっちゃったみたいなの。あの……一緒に外してくれる?」
「ええ」
ついにハリエットは折れるしかなかった。放心状態で全く役に立たないハリーを放って、三人でハリーの似顔絵とメッセージを外した。折角なので、一番うまい似顔絵は持って帰ることにした。
その後、続々とDAのメンバーがやってきた。アンジェリーナは、ハリーとフレッド、ジョージの代わりに入る新しいクィディッチメンバーが決まったと告げた。シーカーはジニーで、ビーターも二人あてがわれた。代わりが決まったことで、一層ハリーは自分が除籍されたことを自覚したらしく、話をしている間中、終始暗い表情だった。
やがて部屋が満員になったところで、DAが始まった。これから三週間にも登るクリスマス休暇が始まるので、新しいことを始めるわけにはいかず、その日はこれまでやったことの復習の時間になった。
妨害の呪いは二人一組になって練習したが、失神呪文に関しては、皆が一斉に練習するには場所が狭すぎたので、半分がまず練習を眺め、その後交代した。始めは少しふらつかせる程度だったハリエットの失神呪文も、この頃には完璧に扱えるようになっていた。ハーマイオニーはもともと完成度の高い失神呪文だったが、更に精度と威力を上げることに精を出していた。
交代の時間が来ると、二人で隅に腰掛け、皆の練習風景を眺めた。
「でも、この調子だったらOWLの実践も安心して臨めるわ」
「私も。前までは闇の魔術に対する防衛術は少し苦手だったけど、今は楽しいもの」
ハーマイオニーは頷いた。
「何とかOを目指したいわ。できるかしら……」
「そっか、今年は君たちがOWLだったね」
休憩をしにセドリックが側までやってきた。
「セドリックは成績どうだったの?」
ハーマイオニーは勢い込んで尋ねた。Oを目指す彼女にとって、優等生であるセドリックの成績は是非とも知りたいところだろう。
「ああ……うん、十一ふくろうだったよ。占い学除いて」
「占い学は取ってたの?」
「三年生の時は取ってたんだけど……あんまり合わないと思って止めたんだ」
「でしょうね! 私もそうなの!」
ハーマイオニーは嬉しそうに言った。何故だか自慢げにも見える。
「他の成績はOだったの?」
「うん……まあね」
「全部?」
「うん」
ハリエットとハーマイオニーは、同時に感嘆のため息を漏らした。必修をこなすだけでも疲れるだろうに、選択科目までOを取るなんて、一体どれだけ努力したのだろう。
「……将来、闇祓いになりたいんだ」
セドリックがポツリと呟いた。
「ヴ、ヴォルデモートのことがあったから……?」
「うん」
セドリックは、どこか遠くの方を見つめた。
「あの時、見ていることしかできなかったのが不甲斐なくて……。これから、どんどん死喰い人による被害は出てくると思う。そんなときに、何か役に立てたらって思うんだ」
そして彼は、気恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
「ここ最近闇祓いは輩出されてないそうだから、少し不安なんだけどね」
「セドリックなら大丈夫よ」
ハーマイオニーはすぐに言った。ハリエットも同調するように頷く。
「だと良いんだけど。最後に闇祓いになったのが、ハッフルパフ出身の女の人だから、僕もそれに続きたいと思って」
「知ってるわ」
思わぬ知り合いが出てきて、ハリエットは嬉しくなった。
「トンクスでしょう? 七変化の」
「知ってるの? 知り合い?」
「ハリーの護衛の関係で、何度かお世話になったから。ハーマイオニーも会ったことあるよね?」
「ええ。気さくで感じのいい人だわ」
「二人とも知ってたんだね」
セドリックはにっこり笑った。
「その人とは二年だけ被ってたんだけど、よく自分の鼻を豚の鼻に変えて皆を笑わせてたよ」
「それ、まだやってるわ。私、前に見せてもらったもの」
ハーマイオニーは笑いをかみ殺しながら言った。
セドリックは秘密を共有したような顔で笑った。そしてすぐ、思いついたようにハリエット達に向き直る。
「もし迷惑じゃなかったら、トンクスに僕のことを話して、手紙を送ってもいいか聞いてくれないかな? 闇祓いになるための試験で、何を参考にしてたのか聞きたいんだ」
「ええ、もちろん」
ハリエットはすぐに頷いた。セドリックのことを話したら、トンクスは絶対に喜ぶだろう。面識があるなら尚のこと。
「ありがとう。よろしく!」
ハリーに呼ばれたので、セドリックは手を振ってハリーの方に走っていった。その後ろ姿を見送って、ハーマイオニーは小さくため息をついた。
「……私も負けてられないわ」
「ハーマイオニーなら大丈夫よ」
ハリエットは微笑んだ。