■過去の旅

24:休暇の終わり


 スネイプが教えてくれた章を読み込んでいるうちにお昼になった。図書館でずっと本を読んでいてもバッジはお洒落にはならないので、そろそろ実践が必要だろう。

 まだしばらく本を読むというドラコ達と分かれ、ハリエットは一足先に大広間へ向かった。昼食後、いよいよ実戦を始めるつもりだった。

 だが、そんなハリエットのやる気を挫くように、昼食後は、興奮した様子のハリー、ロンに外に連れて行かれた。シリウス、ハーマイオニーも入れて、皆で雪合戦をしようというのだ。この中で最難関のハーマイオニーを雪合戦に誘えたためか、最初からハリエットに断るという選択肢は与えられていなかった。

 ハーマイオニーに怒るのはお門違いだと分かってはいるものの、ついつい恨ましげに彼女を見やれば、ハーマイオニーもハーマイオニーで、後ろめたそうに眉を下げた。

「シリウスに上手いこと言いくるめられちゃったのよ。バッジの方はうまくいった?」
「これからやる予定だったの……」
「私も手伝うから、ね? 三時には抜け出しましょ」
「いいの? ありがとう!」

 学年主席の手を借りられるとならば、幸先は良い。ハリエットはすっかり機嫌を持ち直した。

 とはいえ、いざ雪合戦が始まると、ハリエットも純粋に楽しんだ。毎年家族と雪合戦をしていたというロンはなかなかの腕前だったし、そもそもシリウスは何でもよくできる。単純な何もない平野での雪合戦から始まり、禁じられた森の入り口で、逃げ隠れしながらの乱闘。しまいには魔法を使っての何でもありな合戦になりつつあったとき、ハリエットの息はすっかり上ってしまい、一人ハグリッドの小屋の近くで休憩を取ることにした。

 これだけ騒いでも小屋からはうんともすんとも反応がないので、ハグリッドはどこかに出掛けてるのかもしれない。ハリエットは石階段に腰を下ろし、懐から小箱を取り出した。

 森の方からは、未だはしゃいだ声が聞こえてくる。しばらくは、ここで休憩していても気づかれないだろう。

 杖とバッジを取り出し、最初に掛けたのは色を変える呪文だ。続いて、形を変える呪文。――ここまでならできるが、問題は。

 ハリエットは更にローブから本を取り出した。そして該当ページを開く。時間差という条件付きの魔法を掛けられるページだ。複雑に杖を動かすよう絵付きで書かれているが、いまいちよく分からない。試しに見よう見まねでやってみたが、変化が現れるどころか、元の飾り気のないバッジに戻ってしまったので、何が何やら全く分からない。

 ハリエットは早々に諦め、まずはバッジの形を変えることに集中した。

 ジェームズのバッジはスニッチが良いだろう。

 手のひらでコロコロバッジを転がしながら、ハリエットはデザインを考える。

 暇なとき、ジェームズがスニッチを弄っている光景はよく見かける。彼はチェイサーなので、どちらかといえばモチーフにするとすればクアッフルだが、クアッフルはあまり今のバッジと大差ない形状のため、却下だ。

 リリーにはどんな形が良いだろう。ブローチのような、一見宝石のように見えるものであれば素敵だ。キラキラ光るというよりは、宝石を埋め込んだように見えるデザインの方が喜ばれるかもしれない。

 リーマスも悩みどころだ。甘い物が好きというのは分かっているが、子供じゃあるまいし、さすがに蛙チョコ型のバッジは嫌がられるかもしれない――。

「何してるんだ?」

 ぼうっと見上げていた視界に、突然シリウスの綺麗な顔が入り込んできて、ハリエットは悲鳴を上げた。ついで、普段では考えられない反射神経で急いで小箱を閉じる。

「な、何でもない……」

 咄嗟にそう口にしたハリエットだが、あまりにもお粗末すぎる誤魔化し方だと言い直した。

「呪文の練習をしてたの。あの……課題の」

 シリウスの目が、階段に放置された本の方へと向く。

「教えようか?」
「……シリウスが?」

 こくり、と頷くシリウスの顔は真面目なままだ。ハリエットはしばし喜びと葛藤の狭間で揺れ動いた。教えてもらえるのであれば、もちろん教えて欲しい。だが、一応サプライズであるプレゼントのことがバレるのは嫌だ。

「例えばの話なんだけど」

 ハリエットはおずおず口を開いた。

「石を別の形状に変えた後で、時間経過とか、気温差とか、そういう条件を付けたときにまた変化を付けてみたいの」
「魔法の二重掛けしたいってことか?」
「ええ」
「それなら、最初に変身術を使った段階で保護呪文を掛けた方がいいな。そうしないと、二度目に魔法が発動するとき、最初の魔法が解ける」
「だからうまくいかなかったのね」

 原因が分かってハリエットの顔色は良くなった。開きっぱなしだった本をシリウスが見やすいように向きを変える。

「シリウス、ここに杖の振り方が書いてあるんだけど、読んでて分かる? どう動かすのかが分からないの」
「ああ、確かに絵じゃ分かりづらいかもな」

 言いながら、シリウスはゆっくり杖を動かして見せた。ハリエットもそれに倣って真似をする。

「実際にやって見せた方がいいか? まず形を変えるだろ」

 足下の小石を手のひらに乗せ、シリウスは意図も容易くそれをスニッチに変えた。

「これを……どうしよう。温めると本物みたいに動くようにするか?」

 保護呪文を掛けた後、続いてシリウスはハリエットの苦手な杖振りをゆっくり行った。見た目には変化はない。だが、杖先から出した熱風をスニッチに近づけることしばらく。やがてバタバタと羽が動き出した。ハリエットは歓声を上げる。

「さすが! すごい!」
「五年生になったらこれくらいできるようになるさ。魔法界に来たばっかりなのに、形を変えられるだけで充分だよ」

 シリウスの視線はハリエットの膝にあるスニッチに注がれていた。あまり上手にできなかったので、ハリエットは苦笑いをしてそっとスニッチを手で覆った。

「でも、本当に本物みたい」

 シリウスの手の中で動くスニッチを、ハリエットはマジマジと見つめた。

 写真で見たり、ハリーが掲げているのを遠目から眺めたりしたことはあったが、直接、しかもこんなに間近で見るのは初めてだ。厳密に言えば、これは本物のスニッチではなく、シリウスが創り出したものではあるが、シリウスが作成者の時点で、ほとんど本物と相違はないだろう。

 無言で目の前までスニッチ差し出され、ハリエットは怖々と受け取った。丁度円形の部分を指先で摘まめば、薄い金の羽がパタパタと動く。緩やかにハリエットの口角は上がった。

「小鳥みたいで可愛い」
「鳥? ああ、まあ、スニジェットって言う鳥がモチーフだからな」
「聞いたことあるわ。絶滅危惧種なんでしょう?」

 確か昔、クィディッチ今昔を読み込んでいたハリーが教えてくれたのだ。昔のクィディッチの試合では、本物の鳥が使用されていたが、乱獲による数の減少により、スニジェットの模倣であるスニッチが使用されるようになったと。

 冬の冷気で冷えてきたのか、スニッチの動きが鈍くなってきた。まるでオルゴールのようなスニッチにもの悲しく思い、ハリエットは再び杖でスニッチを温め始めた。そんなときに現れたのがロンだった。

「見かけないと思ったら、二人とも、こんな所にいたのかい?」
「えっ?」

 突然振ってきた声に驚いたハリエットは手を滑らせた。杖の方の手ではなく、スニッチを掴んでいた手を――。

「あっ――!」

 幸か不幸か、熱風により元気を取り戻したスニッチが弾丸のように飛び出した方向にはハリーがいた。見慣れたスニッチに目を白黒させている。

「ハリー、捕まえて!」
「そんな無茶な――」

 シリウスが言い終わるよりも、ハリーの動きは素早かった。反射としか言いようがない。理解するよりも早く、ハリーは己のすぐ横を通り過ぎようとしたスニッチを捕まえた。

「わ……わあ……」

 己の兄とは言え、ハリエットは素直に感心した。百年に一度のシーカーのプレイを、まさかこんなに間近で見ることがあろうとは。

「これは驚いた」

 何が起こったかよく分かっていないロンを置いてけぼりに、シリウスは純粋に喜びを顔に浮かべた。

「ハリー、シーカーの素質があるんじゃないか? 前に箒に乗ったときも随分筋が良かったし」
「――まさか」

 一瞬の間をおき、ハリーは首を振って答えた。彼も彼で、ようやく自分の行動を理解したようだった。

「たまたまだよ」

 そう短く返すハリーの頬は、照れたのか、ちょっと赤くなっていた。


*****


 ハーマイオニーやシリウス、スネイプの協力を経て、ハリエットのクリスマス・プレゼントはそれなりに納得のいくものになった。ケーキはクリスマスらしいデコレーションをしたものを個包装し、S・P・E・Wのバッジだって――身につけたいとは思わないかもしれないが――机の引き出しに入れておいて、ふと思い出したときにちょっと眺めるくらいには、別に持っていても良いかなと思えるくらいには成長したと思っている。

 だからこそ、全ての不安を吹き飛ばしたハリエットは、クリスマスの朝もご機嫌だった。なんと言っても、リリーからのクリスマス・プレゼントが届いていたのだから!

 リリーのプレゼントは、雪が降るデザインの髪飾りだった。ハリエットは喜々としてそのまま今日の髪型に合わせた。ハリー、ロン、ハーマイオニーからのプレゼントもあった。皆、どうお金を使わないでプレゼントできるかの試行錯誤が読み取れ、ハリエットは思わず苦笑いを浮かべた。

 スネイプからのプレゼントもあった。魔法界のお菓子が詰まったセットだ。編入したばかりなため、まだ魔法界のお菓子はよく知らないだろうて心遣いが見えた。

 ドラコからは羽根ペンとインクのセットをもらった。例によって、どこか気品漂う意匠の代物だ。ハリエットが学校から貸し出されたよれた羽根ペンを使っているのを見てプレゼントしてくれたのだろう。お金の出所はもちろんダンブルドアだろうが。

 階下へ降りていくと、ハリー達はもう起きていて、暖炉前で騒いでいた。ハリーとロンは、悪戯仕掛人から悪戯グッズをもらったようだ。優等生のハーマイオニーはうんざりした顔をしたが、何も言わなかった。クリスマス効果だろうか。

「メリークリスマス!」
「メリークリスマス」

 悪戯グッズに夢中なハリー達の返答はおざなりだったが、シリウスはきちんとハリエット達の方を向いた。

「ケーキありがとう。おいしかった」
「もう食べたの?」
「クリスマスはそういう日だろう?」

 ハーマイオニーとシリウスが話す中、ハリエットはソワソワしていた。やがてシリウスの目がハリエットに向く。

「君の努力を知ってるからか、とても素晴らしいバッジに見えたよ」
「……嫌味じゃない?」
「まさか!」

 疑り深く聞き返したハリエットに、シリウスは笑った。

「良くできてたよ。あれならマクゴナガルも満点をあげるだろう」
「ハーマイオニーにも手伝ってもらったの」

 ハリエットが小さく白状すれば、シリウスは堪えきれずにニヤリと口角を上げた。

「正直だな。でも、これではっきりと分かった。やっぱりハーマイオニーは監督生に向いてる」
「私が監督生なら、悪戯グッズはすぐに没収よ」
「そりゃ怖い」

 ちっともそう思ってない顔でシリウスは言った。

「エバンズの前では隠すんだぞ。現監督生だから」

 ハリーとロンはおざなりに返事をしたが、ハーマイオニーが急き立てたため、渋々寝室へ持ち帰った。

 その後は、ようやく朝食だ。昨日と同じように大広間の中央にはテーブルが一つだけで、他の三つのテーブルは両側に寄せられている。

 皆はすでに朝食を食べ始めていた。そこにはドラコとのスネイプの姿もあり、もたもたと廊下を歩いているハリーたちをさし置き、ハリエットは一人でテーブルへ向かった。

 ダンブルドアら教員達に挨拶をすると、ハリエットはにこやかにドラコの肩を叩いた。

「メリークリスマス! プレゼント、気に入ってくれた?」
「嫌がらせとしか思えなかった。なんで僕まであの趣味の悪いバッジなんだ」
「でも、よく出来てたでしょう?」

 ドラコのバッジは箒型だ。本当はシーカーたるドラコの方がスニッチ型が適切なのだが、ジェームズ第一のハリエットとしては、箒という選択肢しか残されていなかったのだ。ジェームズとお揃いにすれば、どちらも苦い顔をしそうだし――。

「僕は君たちの考えに全くもって賛同してないのに」
「良いじゃない。あげるものもなかったから、観賞用として部屋に置いておいて」
「反吐なんて飾ったらセンスを疑われる」
「それ、ハーマイオニーには言わないでね? 聞いたらまた怒っちゃうわ」

 ハリエットはちらちら入り口の方を見た。こちらに来るにはまだ少し時間がありそうだ。

「二人とも、クリスマス・プレゼントありがとう! 私のプレゼントはお粗末なもので申し訳ないんだけど……」
「変身術の出来は良かったと思う」

 ボソリと呟くスネイプに、マクゴナガルが興味がありそうにちょっと眉を上げた。ハリエットは慌てて何でもないと誤魔化した。魔法の方ならまだしも、S・P・E・Wのバッジを今この場で出すのは躊躇われた。

「メリークリスマス」

 ダンブルドアが片手を上げ、ハリーたちもようやく到着したことが分かった。

 ハリー達はそれに挨拶を返し、奥から順々に席についていく。先頭はシリウスだったが、スネイプとドラコを視界に入れると、途端に無口になった。

 ドラコとシリウスに挟まれる形になったハリエットは大層居心地が悪かった。せめて隣がハーマイオニーだったならば、と思わずにはいられない。

 ダンブルドアが楽しそうにクラッカーを鳴らすのに合わせ、ハリエットもクラッカーを鳴らしてみたが、両側共に反応がない。ハリエットは一人静かに、クラッカーから飛び出してきたハツカネズミを撫でた。

「食事中だぞ。そいつは向こうにやってくれ」

 ハリエットの手から離れ、ふんふんと興味深そうに自分の皿にネズミが近づいてきたのを見て、ドラコが嫌そうに言った。

「お腹空いてるのよ。そのチーズもらってもいい?」
「どうして僕のだよ」
「だってお皿が遠いから」
「ほら」

 反対側から、シリウスがチーズの欠片をハリエットの前に置いた。匂いに釣られたのか、すぐさまネズミはハリエットの元に戻ってきた。

「あ、ありがとう」
「ネズミが好きなのか?」
「動物が好きなの。……でも、動物の中では犬が一番好き」

 ちょっと照れたように付け足すハリエットに、彼女の思いが手に取るように分かったドラコは、ふんと鼻を鳴らした。

「犬は躾が重要だからなあ。野良だと気をつけた方がいい。すぐに噛み付いてくる」
「お前の対応が悪かっただけじゃないのか?」
「急に噛み付いてくるのに、対応も何もあるか。グリムみたいな凶暴そうな犬は特に要注意だな」
「グリムだと? そんな迷信信じてるのか?」
「例えで出しただけだ。無駄に身体だけ大きい不気味な黒犬――」
「ちょっと、クリスマスの朝に喧嘩は止めて!」

 ハリエットは思わず割って入った。無言が辛いとは思ったが、口論になるのはもっと困る。

 大声を出したせいで、いつの間にかハツカネズミもどこかへ消えていて、ハリエットはしゅんとなる。ダンブルドアは口髭を撫でながら笑った。

「寮の垣根なく仲が良いのは喜ばしいことじゃ。のう、シリウス」
「……どうして俺に?」

 訝しげにシリウスが聞き返す。ダンブルドアはなおもにこやかな笑みを浮かべたままだ。

「ただの年寄りの世間話じゃよ。今のホグワーツは、寮対抗杯を抜きにしても対立するばかりじゃ。わしはそれが悲しくてのう」

 言葉とは裏腹に、ダンブルドアはまたもクラッカーの紐を引いた。大砲のような激しい音と共に飛び出したのは、光る風船とサンタクロースの帽子だ。笑顔でダンブルドアがそれらを差し出してきたので、ハリエットは風船を手に、帽子を被って微笑みを返した。

 両隣から滲み出る殺伐とした雰囲気の中、一人だけ浮かれた格好になってしまったが、今日は折角のクリスマスなので、ハリエットは気にしないことにした。


*****


 やがて、長いようで短かったクリスマス休暇が明け、一時帰宅していた生徒達が戻ってくる日がやってきた。ハリエット達は待ちきれず、ホグワーツ特急がやってくる時刻に合わせ、ホグズミード駅にやってきた。わざわざ出迎えなくても戻ってくるのに、とブツブツ言っていたシリウスも一緒だ。

 いざホグワーツ特急が停車すると、中からどっと生徒達が押し寄せてきた。ほとんど全生徒が帰省していたために、こうなることが予想できていたはずなのに、あまりの量に、ほとんど誰が誰だか判読つかないうちにハリエット達は入り口の方へと追いやられる。

 その最中、背の高いシリウスは、早速誰か見つけたのか『こっちだ』と声を上げた。ハリエットも彼の方向へ向かって行きたかったが、生憎とこの人の波では厳しそうだ。ようやく見慣れた黒髪を見つけたと思っても、目的の人物は弟の方だった。

「こんにちは、ブラック」

 私服を着ているレギュラスは、制服よりも柔らかい雰囲気だったが、ハリエットの挨拶にも軽く頭を下げるだけだった。

 それ以降は、ハリー達すら見つけられずに、ハリエットは駅の入り口付近をうろうろしていたが、やがてクシャクシャな黒髪が人の波を縫って近づいてくるのを見て自分から出迎えた。

「お帰りなさい、ジェームズ!」
「おっと、ただいま!」

 そんなつもりはなかったのに、ジェームズがパッと両手を広げたので、ハリエットもあわあわしながら飛び込んだ。――実質、初めての父親とのハグである。ハリエットの顔に、あらゆる所から熱が集まってきた。ジェームズが頭の上で何か言ってるが、ほとんど耳に入ってこない。ようやくハリエットが正気を取り戻したのは、ジェームズが離れてからだ。

「大丈夫かい? 体調悪い?」
「ううん、そんなこと……。ちょっと人に酔っちゃっただけよ」

 なかなか上手い言い訳だ。ハリエットはへらっと愛想笑いを浮かべた。

「ハリー達には会った?」
「他の皆も来てるんだ? シリウスはチラッと見えたけど」
「みんな人混みに揉まれてるみたい」

 しばらく駅構内を見回したが、相変わらずの人混みで、ちっとも知り合いを見つけられない。

 ジェームズとハリエットは隅に寄って待つことにした。

「僕達がいなくて寂しかったかい?」
「ええ、とっても寂しかった!」

 あまりに素直に返すハリエットに、ジェームズは一瞬面食らったが、すぐに感化されて微笑む。

「パッドフットは君達を退屈させなかった?」
「シリウスのおかげで、素敵な休暇を過ごせたわ」
「それなら良かった。シリウスが残るって言ったとき、正直驚いたんだ」
「どうして?」
「いや、いつもクリスマスはホグワーツには残らないから」

 すぐにはジェームズの言葉を理解できなくて、ハリエットは首を傾げた。

「でも、シリウスはクリスマス休暇はいつも家には帰らないって……」
「家にはね。いつもは僕のうちに泊まっていくんだ。休暇中はずっと」
「じゃあ、どうして今年は……?」
「もちろん君達がいるからだよ」

 ジェームズは眼鏡の奥の瞳を細めた。

「悔しいなあ。大親友の僕といるよりも、君達と一緒にいた方が楽しいと思ったんじゃないかい?」

 からかうように言ってきたジェームズは、きっと分かっている。そしてハリエットも、今ようやく気づいた。

 気まぐれかもしれない。ちょっとした同情かもしれない。それでもハリエットは嬉しかった。未来の名付け親の気遣いが。