■別視点

03:密談



*謎のプリンス『独りぼっち』の後、スネイプ達を追って*


 透明マントを被り、ハリーは会場から出て行ったドラコとスネイプの後を追った。廊下は全く人気がなかったが、二人を見つけるのは容易ではなかった。地下のスネイプの部屋に連れて行ったのか、それともスリザリンの談話室に付き添ったのか、いずれにしても、医務室に行くという選択肢は一番あり得ないと思った。ドラコの顔色は悪かったが、あのいかにも密談しますという顔で、ご丁寧に医務室に行くわけがなかった。
 ドアというドアに耳を押しつけながら廊下を疾走していると、一番端の教室から話し声が聞こえてきた。ハリーは耳をそばだてた。

「……ミスは許されないぞ、ドラコ。なぜなら、君が退学になれば――」
「僕はあれに一切関係ない。分かったか?」
「君が我輩に本当のことを話しているのなら良いのだが。何しろあれはお粗末で愚かしいものだった。既に君が関わっているという嫌疑がかかっている」
「嫌疑?」

 ドラコの声がうわずった。

「どこからそういう情報が出てきたのかお聞き願いたいね。僕はあの日ホグワーツにいた。それはマクゴナガルが証明してくれたはずだ――そんな目で僕を見るな! 何をしているのか僕には分かっている。もう二度とそんな手には乗らない!」

 一瞬黙った後、スネイプが静かに言った。

「ああ……ベラトリックスが君に閉心術を教えているのか、なるほど。君は自分の主君に対して、どんな考えを隠そうとしているのかね?」
「僕はお前がしゃしゃり出てくるのが嫌なんだ。裏切り者のくせに!」

 ドラコは荒々しい口調で嘲った。

「裏切り者とは大層な呼び方だな。我輩はもともとあちら側の人間だ。裏切るも何もない。君の方こそ、自分は誰も裏切ってないと言い切れるのか?」
「僕は……!」

 ドラコは言葉を詰まらせた。

「僕だって――」

 しかしその先は続かない。短い呼吸の音が聞こえた。

「今学期、ずっと我輩を避けていた理由は、気に入らないというだけか。愚の骨頂だ。ドラコ、よく聞け。我輩は君を助けようとしているのだ。君を護ると、君の母親に誓った。ドラコ、我輩は『破れぬ誓い』をした――」
「それじゃ、それを破らないといけないみたいだな。僕はお前の保護なんかいらない! 誰が裏切り者の手を借りるか!」
「だが、これは君一人で成し遂げられるようなことではない。何をしようとしているのか話してくれれば、我輩が手助けすることも――」
「必要な手助けは全部ある。余計なお世話だ。僕は一人じゃない!」
「今夜は明らかに一人だったな。見張りも援軍もなしに廊下をうろつくとは、愚の骨頂だ。どう言い訳するつもりだったのだ?」
「理由はあっただろう。招待客という立派な理由だ!」
「ああ、そうだったな。だが明らかにミス・ポッターには勘づかれるぞ。パーティには行かずに何のために上の階にいたのか、とな?」

 スネイプは深々とため息をついた。

「ミス・ポッターにはもう近づくな。開心術を受けただろう? あの方は全て知っている。これ以上弱みを握られたくなかったら――」
「黙れ!」

 ドラコは激しく怒鳴り散らした。

「そのことは僕が一番よく分かってる! お前に指図されるいわれはない! 僕だって考えてる! パーティにはわざと行かなかった。それだけであいつが僕をどう思うかは分かるだろう!」

 しばらく沈黙が続いた。次に口を開いたのはスネイプだった。

「君の今の気持ちはよく分かるつもりだ。父親が逮捕され、開心術で追い詰められたことで、動揺され、更には両親の――」
「お前に僕の気持ちが分かってたまるか!」

 ハリーは不意を突かれた。ドラコの足音がドアの向こう側に聞こえ、ハリーは飛び退いた。その途端にドアがパッと開き、ドラコが荒々しく出てきた。彼が廊下の向こう端を紛って見えなくなったところで、スネイプもゆっくりとナカから現れた。そこのうかがい知れない表情で、スネイプはパーティーに戻っていった。ハリーはマントに隠れてその場に座り込み、激しく考え得巡らせた。